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《episode》vol.5 by Director KAZUYOSHI OKUYAMA
原作にはない、創作の精神科医
原作でずっと気になっている事があった。「これは以前にもお話ししたことですが」という言葉が前半には何度か出てくる。しかし、半ばの売春の件からは一切ない。この女は何度も医師のカウンセリングを受けながら、激しく異常な性に話しが及ぶと言い淀んだのではないか。ひょっとすると医師にしてみると無意識に惹かれるキッカケになったかもしれない。そして職務との境界線を曖昧にする自己嫌悪にも苛まれたのか。
原作は患者の一人語り。目の前に精神科医がいる設定。映像にする上でどうしても聞き手の精神科医を登場させたくなかった。女のここでしか話せない話を洗いざらいを聞く、という擬似体験を観客に感じてもらいたかった。
観客は限りなく医師の目線に近いところでこの女を言葉を浴びる。医師は医者という仕事と一個人の人間という境目が見えなくなっていく。女もそれを本能的に感じる、だからこそ話しにくいこともある。話しているうちに医師はすでにいないであろうことを感じる。そしてライティングデスクに置き去りになっている手紙を目にすることによって、ひとりの女に一瞬だけ戻る。そのひとりの男性としてひとりの女性に宛てた手紙。
患者から女に、そして今まで話してきた本当のすべての話は・・・「ぜんぶウソですよ」と。