《episode》vol.3 by Director KAZUYOSHI OKUYAMA
口笛のメロディー
「Show Me the Way to Go Home」(※1)。
これが酔いどれピエロが口笛で奏でるメロディーだ。幸いにも1900年のジャズ。100年以上経っている。もうとっくにパブリックドメインになってるはず、ラッキーと思っていた。
映画音楽に既成曲を使用す場合、著作権確認でうっかり失敗すると後々まで祟る。だから念には念をという気分で一応、確認してみた。
と、なんと!!
まだ権利が生きている。なぜ?!
この曲は『JAWS/ジョーズ』(1975年/スティーブン・スピルバーグ監督)で使われていたと。それがきっかけてJAWSソングとして著作権延長の手続きがとられているらしい。
まともに料金を支払って使用するととんでもない金額。ほぼ実験映画並みの予算では到底無理。
諦めきれず『JAWS/ジョーズ』をもう一度見て確認する。どこにこの曲が?なんかの間違いでは?と思いながら。
あ、これか〜。ロバート・ショウが鮫に襲われるあの船で三人が一緒に歌っている、、、。
大変だ、ずっと魅せられていた「Show Me the Way to Go Home」は使用不可!
どうしよう、、、同じ気分になれる曲を作るしかない。それから口笛が上手いという人達に片っ端から頼む旅が始まった。
スマホにこのピエロが口笛を吹いている動画を入れて、それを見せては音楽関係の友達を中心に当たっていった。皆、異口同音に「似たような曲と言われるのは難しいんだよね」と。また「口笛は年齢で音色が違うし、男か女かでも違う、見た感じ中年の男性かな」と。
何人も紹介された。そして事情を話し、口笛で作曲してもらった音を送ってもらう。これを果てしなく繰り返すが、どうしてもシックリこない。明るすぎず、暗すぎず、元気すぎず、落ち込みすぎず、淡々と何にも考えずに大人から子供までがすぐに覚えてしまう単純な曲、とリクエスト。
申し訳ないないことに違うと断った曲は数えると26曲、、、何かが違うのだ。
もうこれ以上は無理かと、旧知のプロデューサーの木谷さんに愚痴った。「そう言えば、デヴィ夫人と一緒にお住まいの女性が世界の口笛コンクールで優勝した事があるらしい」と教えてくれた。
その女性の名前は加藤万里奈さん。
木谷さんが連絡をとってくれて、会うことになった。
整った容姿の上、メチャクチャ若い。老いぼれた感のピエロとは真逆のイメージ。とにかく作曲依頼のためピエロの動画を見てもらい後日デモを送ってもらうことに。別れ際に「なるべくオッサン風の音色にしてくださいね」とだけ付け加える。
1週間後、送られてきた口笛を聞いて感動!ピッタリ。
正にこれという曲(※2)だ。これをもう少し無機質なトーンにすれば充分にいける。すでにオッサン風にはなっている。これ本当にあのルックスの人の口笛かと思うほど見事に。
悲惨な堕ちた過去を語る主人公の声と相塗れるのにはピッタリの精神安定剤のような主題曲が出来上がった。
※1 「Show Me the Way to Go Home」
1925年にイギリスのジミー・キャンベルとレッグ・コネリーが「アーヴィング・キング(Irving King)」というペンネームで書いた人気曲。
※2 予告編にも口笛の音楽が使用されています。ぜひチェック下さい。