#21 地獄のリーダー研修:後編
前編はこちら↓
極限の向こうで触れた愛情
最終日前日の夜のことだった。
もはや何をしても泣く。私はそういう状態になっていた。
私だけでなく、仲間たちも同様に自分の弱さと向き合い、成長したい・できないを繰り返し、もはや全員が極限状態にあっただろう。
講師は徹底した鬼講師で、何一つ褒めてはくれない。
一挙手一投足を取り締まり、何か見つけたら怒鳴られる。
怒鳴る、は少し違うかな。ともかく、大きい声でご指摘が入る。
それが弱さだ、甘えだと何度も言われた。
その鬼講師が、その夜は穏やかな顔で私たちに手渡したのは、それぞれの職場の人からの手紙や色紙だった。
私には社長、部長、エリア長、それからお店のスタッフ達全員からの寄せ書き。
貴女ならできます、と社長が。
入社した時からユーコは一味違った、と部長が。
ユーコを尊敬してます、とエリア長が。
お店のみんなからは、
いつも私たちのためにありがとう、
ユーコが店長になってから毎日楽しい、
早く帰ってきてね、
と普段見ている愛おしい文字が並んでいた。
極限状態でのこれは…
涙が止まらなかった。
それは周りの仲間たちも同じで、「明日、最終日の君たちに期待します。必ずこの思いに応えなさい。」と鬼講師が先に研修室を出てからも、しばらくみんなの嗚咽が聞こえていた。
そして最終日
もはやあまり記憶が無いのは、「絶対に仕事の10の鬼ルールを覚えねば!会社のみんなの期待に応えねば!」と一睡もせず暗唱の練習をしたからだろう。
限界はとっくに超えていた。
私を突き動かしたのは、気持ち、それだけ。
結果を言うと、11人中鬼ルール暗唱に合格したのはたった1人だけだった。
最後まで鬼講師がブレなかったのはいっそ気持ちが良かった。
始まったところで「声が小さい!失格!」とか「姿勢が悪い!失格!」と、私たちはバッサバッサ斬られた。
私は4つめぐらいで噛んでしまい不合格。
合否については言及が無かったので、結果よりも合格を目指して向き合う過程が必要なのだろう。
そして最後の最後。
修了式、というものを言われたとおりに目を瞑って開始を待った。
後ろの方で人の気配を感じたのは、参加者の会社の社長や上司が修了式を見届けに、そしてお迎えにきてくれたのだった。
「迎えに行くからな!」と社長が言っていたな。
号令で目を開け、最終スピーチが始まった。
この研修で学んだこと
自分の弱さを知ってどう向き合ったか、
これからどういうリーダーになるか
そんなことを。もちろん大声でね。
私は名前を呼ばれて、
もう安定の号泣で、
でも言いたいことは言えたかな。
社長がどこにいるかなんて、涙で前が見えないからわからないまま。
こうして、ユーコは地獄のリーダー研修を終えた。
うそやん!
終わった瞬間の笑い話がある。
「おつかれさまですー」と私に近づいてきたのは社ty…??
だれ!
どうやら社長が急な商談になったから、と人事部の方と名乗るおじさんがそこにいた。
私は入社からわずかの期間で店長になったため、その方とお会いしたのは初めて。
社長きてないんかーーーい!と思わず言ってしまった。笑
そして、社長が夜なら空いているからどこかお食事にでも…と言ってくれていると聞いたが私が会いたい人は他にいた。
いくつか電車を乗り継いで、急いで向かったのは自分のお店。
お店の、みんなに、会いたかった。
勢いよく営業中のお店に正面から入って数日振りの再会。
バックヤードでベタベタとみんなを抱きしめたり(女の子が多いお店で良かった)、寄せ書きをもらってすごく嬉しかったことを伝えると
「わかったからw今日なにかおごって!」とたかられた。笑
むしろ奢らせてください!と閉店を待ってみんなで飲みに行って、「それでその前髪なんなん?」と突っ込まれまくったことは覚えてる。
ここが「お母さんマネジメント」の原点
あの地獄の研修を終えて、私は強くなれたのだろうか?
部下を厳しく指導する、というのは未だに苦手だ。
だけど、部下を子どものように思うこと、この子達が私をリーダーにしてくれている、という思いは研修以降とても強いものになった。
職場が変わった今も、それは同じ。
子どもは愛情をかけてあげればグレない…みたいなのと同じで、いつも見ていること、私以外の人に怒られないように守ってあげること、「がんばってくれてありがとう」と声をかけてあげること。
全部、店長としてスタッフと向き合う中でやってきたマネジメントだ。
ここでの原体験が、今の私を作ってくれた。
みんなにありがとう。
貴重な経験をさせてくれた地獄の研修にも、ありがとう。
おまけ:社長からのフィードバック?
研修を終えてしばらくして社長と会った時に研修でのことをすごく褒めてくれた。
え!鬼ルールの暗唱もできなかったし、基本ずっと泣いてるし、今回ばかりは褒める要素ないのに!
と言うと
「研修会社に言われたよー!ユーコさんはいいねって。あの子は1000人に1人の逸材ですよ!大事にしてくださいって!」と。
1000人に1人…。
一体何なんだ。良い意味…よね?
その話は社内で独り歩きし、「ユーコは1000年に一度の社畜!」ということで皆が納得していた。
そう言われるぐらいに働いていたあの頃が、今日は少し懐かしい。