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御裸イ坂〜哀捨てNOTE 033/小説+詞(コトバ)
陽(ヒカリ)のスマホが鳴った。
當(アタル)からだった。
「もしも~し。めずらしいね、アタルが電話して来るなんて」
「ああ。あのサ、マスターが、死んじゃった」
「うそ~!?」
「今まで発病しなかったのは、運がよかったんだってサ」
「運?」
「ああ。若いころ、いろんな国を放浪してたのは、いつ発病するかわからないから、どうせ死ぬなら好きなことをやってやろうと思ったんだって。親戚のHiToが話してくれたよ」
「そう…でも、好きなことが出来たんだし、結構長く生きられたし、幸せだったんじゃない?」
「そうなのかな?」
「うん。だって、自分の夢に挫折するHiToの方が断然多いのに、好きなことが出来て、自分の劇団まで持てて、しかも、そこそこ人気もあったっていうし。人間、欲を言ったらきりがないじゃない。マスターは、幸せだったんだよ」
「そうだよね。まだまだ生きていれば、あのマスターのことだから、もっと楽しいことが出来たかもしれないけどね」
「うん。それで、『哀捨てノート』はどうなるの?」
「そうそう。親戚のHiToが、しばらくの間はオレに店を続けさせてくれるって言ってくれたよ」
「よかったじゃない」
「まあね。でも、マスターが退院するまでって思ってたから、いきなり一人で店をやれって言われてもネ。見よう見まねでやってただけだから…」
「じゃあ、私が会社を辞めて手伝ってあげるよ」
「え、いいよ」
「なんでよ? きっと私目当てに、いっぱいお客さんが来て、繁盛するかもよ!」
「えーッ、そうかなァ」
「あっ」
「ムカツクって言うな! ウゼェーって言うなよ!」
「ム、ウゥゥゥゥゥ」
「唸るな!」
「ワン!」
「アホ!」
「ムカツク!」
「あっ、言いやがったな」
「ウゼェーよ!」
「ワン!」