
御裸イ坂〜裸舞姫美礼 009/小説+詞(コトバ)
「出来ました、出来ました! ミレイさんが主演の舞台の構成が!」
「えーッ、ホントに!? ていうか、構成? この間は、構想?」
「そうです。まだここから、脚本にして行かなくちゃいけないんです」
「そうなんだぁ。その構成でいいから、早く読ませて!」
「はい、どうぞ」
「題名は、ラシンミレイって読むの?」
「いえ、裸神美礼(らしんみらい)です」
「礼って、ライとも読むんだ~?」
「礼讚のライです」
「そっかぁ、なるほどね~。それでは、読ませて頂きます」
「うわ!? ドキドキして来ました」
「私は、ワクワクしてるわ!」
『裸神美礼』。
今宵、皆様を、ファンタジーワールドへお招きしたいと思います。
ここは、遠い遠い昔の御裸イ坂。
その名前の由来となったお話です。
御裸イ坂にある村では、雨に悩まされ続けて来ました。
ある年には大雨が降り続き、またある年には日照りが続き、農作物への被害は甚大でした。
自然が起こすものなので、村人たちにはどうすることも出来ず、村は、どんどん疲弊して行きました。
そんな村人たちの嘆きや哀しみを、坂の下に住む、身寄りのない娘が、ずっと見ていました。
彼女は、木彫りの人形を作る職人で、自らを空春(くうしゅん)と名乗り始めました。
それは、今日の見上げる空は暗いかもしれないけれど、この空は、きっと春を連れて来てくれるという願いを込めた名前でした。
空春は、作った人形を町へ持って行けば、少しの間、自分一人が食べて行けるだけの金を得ることが出来ました。
そのため、自然災害に左右されずに、なんとか生きて行くことが出来ることを有り難いと感謝しつつも、村人たちを救ってやれない自分に、もどかしさを感じていました。
ある日、空春が、町に人形を売りに行くと、店先に飾ってある自分が作った人形に、手を合わせている老婆がいました。
「何故、その人形に手を合わせているんですか?」と、尋ねてみました。
「人形のお顔が、あまりにも神々しくて、思わず手を合わせていました」と、答えが返って来ました。
それを聞き、空春は頭を下げ、売るはずだった人形を老婆に渡し、急いで村へ帰りました。
老婆が手を合わせてくれていた人形は、小さな裸婦像でしたので、もっともっと大きな裸婦像を作り、坂の上に飾ることにしました。
しかし、それを村人たちには知られない方がいいと思い、本業の人形作りは昼に、裸婦像作りは夜にすることにしました。
空春は、村の平穏を祈りながら、丹精を込めて作り続け、数年後、大きな大きな裸婦像が完成しました。
そして、村人たちが寝静まるのを待ち、坂の上まで裸婦像を担いで行き、そこに飾りました。
夜が明け、朝陽に照らされた裸婦像を見た村人たちは、その神々しさに、思わず手を合わせました。
いつしか、それは、『御裸様(みはだかさま)』と呼ばれるようになり、村の守り神になりました。
しかし、あまりに直接的過ぎる名前を女たちが嫌がり、『御裸様(みらさま)』と、すぐに呼び方が変わりました。
空春は、村人たちが喜んでくれているのを見て、他の村にも裸婦像を飾ろうと決めました。
村人たちには、「町に人形を売りに行く」と言い、そのまま旅立ちました。
ですから、誰が御裸様を作り、そこに飾ったのかは、誰も知らないままだったのです。
何故なら、村人たちは、空春が作っている人形を見たことはありませんでしたし、まして、町で買う余裕などもありませんでしたから。