
御裸イ坂〜裸舞姫美礼 011/小説+詞(コトバ)
御裸様が坂の上に現れた年には、日照りが続きました。
村人たちは御裸様に手を合わせ、空(そら)に祈りました。
しかし、暑い日は続き、雨が降る気配もありませんでした。
それでも村人たちは、来る日も来る日も手を合わせ、祈り続けました。
すると、ある朝、御裸様に手を合わせていた村人の一人が叫びました。
「雨だ、雨だ! 雨が降って来た!」
その叫び声とともに、空に雨雲が広がり、一気に雨が降り始め、見る見るうちに勢いを増して行きました。
久々の雨は、丸二日も降り続け、村じゅうの田畑を潤わせてくれました。
そして、その年は、大豊作となりました。
後日、初めに「雨だ!」と叫んだ村人が、妙なことを言い出しました。
「あの雨が降る直前、御裸様の眼が開き、未来が見えた!」と。
それは、瞬く間に村じゅうに広まり、以来、御裸様は、「裸神美礼」と崇められ、とうとう神にされてしまいました。
しかし、「御裸イ坂」という地名は残りましたが、「裸神美礼」の名は、現在、残っていないようです。
というのも、あの大雨の数年後、御裸様が忽然と姿を消してしまったのです。
本来なら、盗まれたという表現になるのでしょうが、御裸様がいらした場所が、少しも荒らされてはいませんでしたので、様々な憶測が飛び交い、HiTo々は、天変地異や祟りを恐れました。
しかし、何事も起こらず、平穏な時が刻まれて行きました。
ですから、その坂は、御裸様のいた、未来へと続く坂という意味を込めて、『御裸イ坂』と呼ばれるようになったということなのですが、肝心の御裸様が消えてしまったので、「裸神美礼」の伝説は、語り継がれなかったようです。