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【掌編小説】テムとラスの旅

 テムの住む世界にはサンナと呼ばれる種族が暮らし、テムも〈サンナ族〉の一人だった。
 ただ、唯一の友だち、ラスは〈ムルナ族〉の末裔で、その種族は代々短命の種族だった。

 テムは毎朝自分の畑で穫れるおいしい野菜や果物を売って生活している。
 ある日、店にラスがやってきて野菜と果物を買っていった。ラスの肌も髪も真っ白で、赤髪のテムとは真逆の姿をしている。町の人たちも、そんなラスを気味悪がり、哀れな目を向けていた。

「ラス、そのリュックサックどこに行くんだよ」
 テムはいぶかしげに聞いた。ラスは野菜と果物をリュックサックに詰めると顔を上げ少し言いづらそうにしていた。
「町を出ていこうと思って」

 テムは衝撃を受けて、ラスをまじまじと見、なんて声をかけようか迷った。
「ラス、おれも行く」
「いや、君には必要としている人たちがいる」
 ラスは首を横に振ったが、テムは食い下がって、すぐに荷物を準備すると言い張った。
「東のかなたにある燦々の国に、〈長寿月の民〉がいるって話聞いたことあるだろ?」
「テム、あれはほんとうにあるかどうか……」
「一緒に探そう」

 テムは早めに店じまいして、家に帰って出かける準備をした。ラスもテムと明日の早朝にでかけるため、一晩泊まっていくことにした。

 翌日の太陽がまだのぼらない時間、二人は出発した。
 町を出て、草原を歩いていった。お昼に港で船に乗り、まだ見ぬ土地にはじめてたどり着いた。

 長い長い旅だった。
 ラスの髪はどんどん黒ずんで、顔にも特徴的な痣が出はじめた。〈ムルナ族〉の病気の一つだった。
 テムは急いだ。二人は今灰色の荒野を歩いている。燦々の国の入り口がどこかにあるはずだった。

「燦々の国へ行ける、流星の獣になれたらいいのに」
 テムは旅の途中、毎晩そう願った。

 ついにラスは体中に痣が広がり、地面に倒れ込んだ。あの真っ白な髪と肌は、変わり果てた姿になっていた。

 テムは夜、星空を見渡し、自分の命を捧げる思いで、流星の獣の姿をイメージした。
 テムはやがて、赤く輝く馬に変わり、最後の力を振りしぼるよう、ラスに言った。

 テムはラスを背中に乗せて疾走した。走って走って、荒野を駆け抜けていく。

 ラスの体から力が無くなった時、ようやく光り輝く場所に出た。
「燦々の国だ!」
 白く輝く塔や高い建物が視界に飛び込んできた。木々や花々も見たこともない色や形をしている。

 ラスはもう助からないのだろうか。 
 そう悲しみに暮れていると、真っ白な髪と真っ白な衣装に身を包んだ人たちが現れた。
 ラスをその人たちにまかせて、テムは待った。

 やがて招かれた場所でテムとラスは再会した。テムは流星の馬のままでしばらくいることを望んだ。
「この国を必要としている人を探しに行ってくるよ」
「わかった。テム、待ってる」
 そう言って、二人の親友たちは抱き合った。

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