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【掌編小説】ドロシーと怪物

 ドロシーは今暗い森の中にいる。そして目の前には、二階建ての家ほど巨大で、森の木々よりもさらに黒い者がいた。

「怪物……」とささやき、一歩後ずさろうとしたが、体が動かなかった。
 ドロシーの金色の髪が風になびくと、怪物はまばたきをして首を少しのばしてきた。獣の匂いが漂い、低く喉を鳴らす声が聞こえる。針のように四方八方に飛び出すように生えた毛が、月の光に金色に淡く光っていた。

 逃げよう。そう思い、村へ向きを変えようとした。
(でも、私……村に帰っても独りだ)
 そう思った瞬間、どこかから歌が聞こえてきた。ドロシーの耳に聞こえてきたのは、木々の梢をゆらすようで、花びらを運ぶ風のような、うつくしい歌声だった。
 だんだんと眠くなり、地面に膝をついた。最後に見たのは、怪物の金色の二つのまるい目だった。

 気がつくとドロシーはベッドに寝ていた。知らない天井と壁。花模様の装飾の部屋だった。
 起きて窓まで歩きカーテンを開けると、まだ夜だった。
「晩ごはんのしたくができています」
 部屋のドアが開いて、あの怪物があらわれた。びっくりしたが、お腹が鳴り、ドロシーは怪物と一階の食堂へと向かった。

 魚や鶏肉、サラダにスープ、果物が並んでいる。おそるおそる食べてみたが、なんともないようで、ドロシーはやがて夢中で食べはじめた。
 長いテーブルの向かいには黒い怪物がいて、じっとこちらを見つめている。

「私は村で暮らしているけど、ほとんど村はずれで、家族はいないんだ」
 翌日、晴れた日だった。ドロシーは怪物にそう言った。
 ドロシーと怪物は今、城の中庭の小さな階段に腰かけていた。ドロシーが昨夜運ばれたのは、怪物の住むうつくしい白銀の城だったのだ。

 すると、怪物は歌を歌った。森で聞いたあの歌声だった。
 ドロシーは最初その歌を聴いているだけだったが、やがて一緒に歌い出した。


 それから三年後、白銀の城には二匹の怪物が暮らしていた。
 一匹の怪物が歌い、もう一匹の怪物も後から同じように歌った。
 怪物たちは城から出て草原のかなたを見渡した。遠くから聞こえてくる同じメロディーに、怪物とかつての少女は耳をすましていた。

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