【北野映画】「アウトレイジ」3部作を見たことがないなんてもったいないから絶対見ようという話
キラ子です。
いやー。びっくりしましたね新井浩文の逮捕! キラ子がたまに飲みに行ってた新宿の海鮮居酒屋にサイン色紙があって、勝手に親近感を覚えていたのにこんなことになってしまうなんて。そしてすぐに思い出しました、彼は「アウトレイジ ビヨンド」で好演していたことを。出演作が公開前にお蔵入りになってしまったというニュースを知り、「アウトレイジ ビヨンド」もどうなってしまうのかと不安に……あ、大丈夫でした。TSUTAYAに普通にありました。
私は北野映画でも特に「菊次郎の夏」と「キッズリターン」、そして「アウトレイジ」3部作が大好きなんですよ! どれも甲乙つけがたくそれぞれにそれぞれの面白さがあるんです。「菊次郎の夏」はとにかく子供が可愛い。「キッズリターン」は主演の二人が大変に可愛い。そして「アウトレイジ」は……とにかく全員可愛い。いや、可愛くはないか。おっさんしか出てこない映画をして可愛いというと語弊がありそうですが、おっさん好きにはたまらない作品なのです。
おっさんが多いということは、ベテラン俳優が多く、演技面おもにセリフ回しにおいて安心して見ていられるのがいいんです。滑舌的な意味で。「シン・ゴジラ」が好きなのも、スーツを着たおっさんが大量に出てきてベテランらしい仕事をしてくれるから、安心して見られるんですよね。
近年、漫画を原作とした若い男女が微妙な演技でワーキャーする映画がとても増えていて、興行収入もそこそこだったりするんですけども、さすがに私はもうそのテンションについていけないわけですよ。いや、昔からそういう映画ずっと苦手だったけども。高校生の頃から、時代劇とか好きでしたからね……。
というわけで今日は「アウトレイジ」3部作のそれぞれの素晴らしさについて語りたいと思います。もうすでにいろんなところで語り尽くされていてなんで今更という感はありますがこの映画は後世に残していくべき素晴らしいおじさん映画なのでまだまだしつこく語りたい。ので、プロブロガーの記事にありそうな雑な構成でお届けします!
「アウトレイジ」3部作はどの順番で見るのがいいの?
そもそも映画「アウトレイジ」とは何なのか。てところからですね。いつものウィキペディアから引用します。
『アウトレイジ』(Outrage) は、2010年6月12日に公開された日本映画。北野武の15本目の監督作品。
キャッチコピーは「全員悪人」「下剋上、生き残りゲーム」。
過激なバイオレンスシーンや拷問シーンが数多く含まれるため、映倫でR15+指定を受ける。
『アウトレイジ ビヨンド』は、北野武監督による日本映画。2012年10月6日に日本公開された。第69回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門正式出品。R15+指定。
キャッチコピーは「全員悪人 完結。」「一番悪い奴は誰だ?」。
『アウトレイジ 最終章』(アウトレイジ さいしゅうしょう)は、北野武監督による日本映画。2017年10月7日に日本公開。R15+指定。
キャッチコピーは『全員暴走』。
第74回ヴェネツィア国際映画祭のクロージング作品となった。
ストーリーは時系列に沿って進んでいるので、公開された順番でいいです!
つまり、「アウトレイジ」→「アウトレイジ ビヨンド」→「アウトレイジ 最終章」。わけわかんなくなりそうなのでここでは最初に公開された「アウトレイジ」をガンダムよろしく「無印」と呼び、他も「ビヨンド」「最終章」と統一することにします。また「アウトレイジ」と書く場合はシリーズ全体を指すことにしましょうか。
北野監督としてはこれをシリーズ化させるつもりはなかったらしいんですが(「無印」のラストも続きはありそうななさそうな感じをうまくだしている)、評判が良いので「ビヨンド」を作り、完結といったもののそれでもまた評判がいいので「最終章」を作って、もう絶対に完結させてやるぞと完結させてしまいました。実際「ビヨンド」を見た時はもう続きはないかなあと思ったのですが、最終章の制作が発表されてキラ子大歓喜でした。
ではここからはそれぞれのシリーズのみどころ。というかキラ子が好きなところをひたすらに書き綴っていきます!!
「無印」のみどころは?
キラ子’s eye→ 椎名桔平(役名:水野)が最高にかっこいい。以上です。
1行で終わってしまった! でも実際、椎名桔平がいかにスタイリッシュヤクザでありボスに忠実な部下であるかをこれでもかと描いた本当に「椎名桔平・イン・ヤクザワールド」のような作品なんですよ「無印」は!! あとセクシー担当でもあるんですよ。「無印」における色っぽいシーンは椎名桔平だけなんですが、そのときの裸の椎名桔平がもう、美しすぎる……背中の彫り物が。(この背中の絵、せっかく時間をかけて書いてくれたのにあんまり見せ場がなかったので、わざわざこういうシーンを作ったらしい)
ベテランのおっさん俳優が多く、皆恰幅がいい人揃ってるんですよ。実際、関東の今時のヤクザ稼業の人は体を凄く鍛えてるらしいんですね。ジムに行くためにあまり彫り物もいれたりしないとか。キラ子が今住んでいるところは治安があまりよろしくなく、入居してるマンションにも普通に組事務所があるんですが、やはりガッチリした体型できちんとスーツを着た人が多いです。で、「無印」ではそのガッチリしたおじさんに囲まれた中でスラリと長身の椎名桔平が細身のスーツをスラリと着こなすと……うっかりドブ川に迷い込んだ鶴のような美しさなのです! あ、画面の中には加瀬亮もよく一緒にいるんですけども、彼は組の中でもゆとり枠なので(怒られやすいポジション)あまり目立ちません。「無印」では。
では一般的な「無印」の評価ではどうでしょうか。今時はやらないといわれるヤクザ映画というジャンルで、さらに難解といわれ日本国内では敬遠されがちな北野作品であるにもかかわらず、珍しく「無印」がこうも大受けしヒットしたのかという理由を考えてみると、ヤクザなのに実際の社会でも起こりがちな、大きな組織と小さな組織がわちゃわちゃする構図がテーマになっていてとてもわかりやすいからです。
いや実際、ほんとしょうもないんですよ、「無印」は。大きな組織である山王会における、舐めてる・舐められてる論争が転じて大変なことになっちゃう話なんです。
会長「俺たち、外部のヤクザにも傘下のヤクザにも舐められてるかも。」
若頭「えぇ……。じゃあ舐められないように〆ときますわ。池元ォ!」
池元「わかりました。大友、ちょっとあいつら〆といて。」
↓
池元「やりすぎだ大友ォ!!」
基本、この繰り返しです。そして大友(ビートたけし)がやらかすたびに血がたくさん流れます。大友は昔気質のヤクザで、うだつの上がらない山王会の3次団体を仕切っている男。集まっているのも、なんだか微妙な顔ぶれです。だから椎名桔平が余計に目立つんですけど……それはともかくとして。山王会からすれば、「傘下じゃない組が大きい顔してるのが気に入らないから軽く〆たい」ってくらいの気持ちだったのに、やたら人が死ぬので、なんで? なんで? て感じです。大友組からすれば「上の方々に言われたことだから軽くとは言われたけどガッツリ〆よう」と忖度しすぎた結果、別の忖度が発生した事案です。
これはヤクザ社会じゃなくても見られる事態ですよね。キラ子の知り合いにとある大手企業に勤めている人がいるんですが、広告を担当していて、その月に消化しなければならない広告予算が100万円ほど余りそうだったのです。で、とある大手広告代理店に「何か空いてる枠ない?」と軽い気持ちで相談したら、いつのまにか話が大きくなっていて代理店から仰々しくも某所とタイアップした1億円の広告提案が降ってきたという笑い話をしてくれたことがあります。桁間違えすぎだよ!
と、こんな面白社会を生き抜いている我々に対して「無印」は、「ヤクザ社会も昔は任侠がーとか男がーとか言ってましたけど、もうそういうの流行らないんですよね。でも昔気質の人多くて困ってるんすよ」ということを伝えた結果、ヤクザじゃない人たちが圧倒的に支持されてしまった作品なのです! よし、いいオチがついた!
……とはいえ「全員悪人」というキャッチコピーがついているように、ラストにちょっとしたどんでん返しが隠されています。でも、なんだか笑えるんですよね、シュールで。やはり笑いの第一線を張ってきた人らしい結末です。シュールといえば、ぼったくりの店にいたホステスの場末感も半端なかった。実際、ああいうぼったくりの店にいかにもいそうなクオリティ(の低さ)。このさじ加減が凄く好きです。
いやー、それにしても椎名桔平はかっこ良かったわぁ……。あと三浦友和がね。あんまり悪い役やってこなかった人なんですが、ここでもうお前ぇ!?ってくらいワルくなるので、そのギャップも凄く良かったです。あ、ワルでいえばあのいい人を絵に描いたような役どころをすることが多い小日向文世が怒号を飛ばすのが割と衝撃的でした。
「ビヨンド」のみどころは?
キラ子’s eye→ 中野英雄(役名:木村)が意地を見せる。
キラ子にとって中野英雄ってあれなんですよ。昔あったドラマ「愛という名のもとに」(1992年)のチョロなんですよね。もうね、見ててびっくりしたあの展開。あのときの気弱な彼が「無印」で巻き舌になってるのを見て、人は変わるのだと思いました。ただそういう役だっただけなのに!
で、「ビヨンド」ではそんな木村(中野英雄)が可愛がってた若い衆が新井浩文と、そして今をときめく桐谷健太だったのですよ……! 「ビヨンド」を見てると、その後auのCMに出てきた桐谷健太にこそキラ子はびっくりしたけどね。それなのに、片割れときたら……いい演技してたのですけどねぇ。
「無印」では大友と敵対していた木村ですが、色々あって「ビヨンド」では共闘。裏切った石原(加瀬亮)にサクッと復讐し、無惨に殺された若い衆の仇を獲るべく勢いで大阪にカチ込み。「無印」での木村はカッターナイフを渡され「これで指詰めろ」→「できるかー!(逆ギレ)」で結局指詰めなかったんですけど、「ビヨンド」では大阪でわちゃわちゃした結果、凄い方法で指を詰めることに。そんな伏線回収ってありますか!?
カチ込んだ先の大阪で待ち構えていたのが「探偵!ナイトスクープ」で涙の局長としておなじみの西田敏行で、暗黒面に落ちた西田敏行が楽しめます。FGO風にいうならば西田敏行オルタ。もう、滅茶苦茶怖い。関西人ヤクザにありがちなノリツッコミや優しい面を見せながらも巻き舌で威嚇。あっ、塩見三省が怖いのは知ってました。ナインティナインが主演した「岸和田少年愚連隊」のウルトラマン先生ですしね。逆に「あまちゃん」のときの勉さんが素朴過ぎてびっくりしたくらいです。
さて「無印」であった忖度に次ぐ忖度が「ビヨンド」では一切見られません。むしろ「無印」であったあれやこれやのひずみが一気に吹き出してくるのが「ビヨンド」です。関東にあった忖度の文化が大阪では通じません。拳の届く距離の相手としか話をしない大阪の花菱会の面々、こわい。話が進むに連れて、彼らが実は山王会のわちゃわちゃを見て、関東への進出を手ぐすね引いて待ち構えていたのだと思い知らされます。実際もう、仕事がデキる男がことごとく死んでしまい山王会の内部は使えなさそうなヤクザしか残ってないんですよね。もうそこからは戦争に次ぐ戦争で、天下をとった三浦友和もあっけなく失墜します。
「ビヨンド」のもう一つのみどころ? というべきなのか? セリフも何もない、顔もあんまり映ってないヒットマン役で高橋克典が出てきます。高橋克典、どうしてもこの映画に出たかったらしくて、結果セリフさえない役になってしまったものの、やはりその立ち居振る舞いのすべてがかっこいいです。というかホントに顔も一瞬しか映らなくてね、え? さっきの高橋克典? セリフない? と思ってエンドロール見てやっぱり出てたんだー! と驚いた記憶があります。
それにしてもこの映画は、渋みのあるおじさんとくえないおじさんとうだつのあがらないおじさんしか出てきません。あと、何かの本物っぽい韓国人の人が出てくるのが色んな意味でドキドキしました。なおこの人は「最終章」にも続投しましたが、北野監督の個人的な知り合いらしく……セリフも増えてちょっと演技も勉強してきたのかなと思わせるところがありました。北野監督と周囲の人間関係がちらちら見えるのがいいですね。
それにしても、木村には救われてほしかったなあと思うのです。なんだか、うまくいってたように見えたのですけどね。誰が木村を殺したのか。大友は真犯人を知らなくとも、焚き付けた相手はわかっていたのでしょうね。その相手を殺して無事、終幕となります。
「最終章」のみどころは?
キラ子’s eye→ ピエール瀧(役名:花田)がずっと肩身が狭い。あと大森南朋(役名:市川)がひたすら可愛い。
会長が代替わりした(役者が死去したため)大阪・花菱会で力をつけてきた新興ヤクザとして登場する瀧! 予告編でもインパクトのある登場をしてたので期待してたのですが、実際キラ子が目にしたのは、最初こそ勢いが良かったものの、実は大変センシティブな箇所に触れてしまったせいで上の人たちが揉めてしまい、それからずっといたたまれない顔してる瀧だった……。「無印」での塚本高史もやらかしたせいですごく気まずくなる若いヤクザを演じていてとても可愛らしかったんですが、「最終章」における瀧のいたたまれなさは段違いですね! 実際の撮影現場でもこれでもかというベテラン俳優に囲まれていたたまれなかったであろう瀧とクロスオーバーするようなこの展開、電グル聴いてた一人としてもたまりませんでした。あと部下が原田泰造というのも、いかにもイケイケな幹部が抱え込みそうなチャラ男感あるよね。とにかく瀧が面白いんです。「凶悪」で見せたちびりそうなくらい怖い瀧とは打って変わって、いや最初こそ怖いものの、あとはずっといたたまれないまま暴走し崩壊してゆく面白ヤクザを好演しています。
そして、大森南朋ですよ! こういう雰囲気の人にキラ子は昔からよわい。この、ボサボサ頭に無精髭というそこはかとなくただようダメ感、なのに銃とか持たせると異常に似合い、大友を慕いなんでも言うことを聞く忠犬のような存在。そうこれは、二次元界で使われる「わんこ」というキャラクターの仕様そのものです! 大友と二人で出所記念パーティー(なんだこの馬鹿馬鹿しいイベントは)に乗り込んでマシンガンぶっ放す格好良さときたらもう……もう! これ大森南朋のプロモーション映画だったのでは!? と思ってしまうくらい、とにかく大森南朋が忠犬可愛いのです。ラストのシーンとか、すごくその背中が寂しそうで悲しそうで……泣いた。あれずっと大友を待ってる背中ですよね! 涙腺大決壊。
ほかにも北野映画の常連であり、北野映画での好演が評価され活躍することになった大杉蓮が満を持して登場し、証券マンからヤクザの大親分に転向したイヤミったらしいおじさんを熱演します。また警察側からは、「ビヨンド」で退場した小日向文世にかわって松重豊が汚職を嫌う刑事として出てきます。松重豊はここでもやっぱり美味しそうにご飯を食べます。アウトレイジで飯テロ、やめてー!
さてストーリーで言えば、「最終章」では関東も掌中に収めた花菱会がきな臭くなります。前会長の娘婿であり証券出身の会長(大杉蓮)がサラリーマン社会よろしく花菱会の発展のために多額のノルマを課し、たくさん稼げたヤクザは序列関係なく厚遇されるようになったのです! その構図は義理人情を重んじて経営悪化した老舗企業が新興企業に買収されて、経営理念から転換させられてしまうのとよく似ています。かと言って辞めたところで潰しがきかないのが辛いところ。つくづく「アウトレイジ」シリーズってヤクザのサラリーマン化を描くのうまいですよねぇ。花田の件もそうですが、古参幹部は苦々しい顔を隠しきれません。どうも「ビヨンド」ではそんな風に見えなかったのですが、実は内部はお金的に厳しかったようですね。会長の死後、直参の幹部ではなく金融の知識がある娘婿が負債ごと引き継いで立て直しをはかったことが彼らの会話からわかります。
で、日本にいるだけで色々と問題を起こしそうな大友はというと、韓国は済州島でスローヤクザライフを送る日々です。しかし花田が遊びに来て、任されていた店を荒らされたので仕方なく帰国。こうして内部が揺らぐ花菱会vs韓国ヤクザをバックにつけた大友vs牙を抜かれたけど花菱会をひっくり返す機会を狙っていた山王会という地獄のような3WAYマッチの幕が開くのです……! しかし韓国ヤクザというアレなところを当たり前に存在するものとして、シレっと出してきましたね。
そして、大友のためならわんわんお! な市川が大活躍。大友にはいつもこういう熱い男が必ずついてきますね。木村然り、市川然り。大友の不器用だけど昔気質なところに惹かれるのでしょうか。花菱会サイドには池内博之という年を経て苦味ばしったいい男が登場します。あっ、無能そうな山王会ですか? やっぱり無能感が凄いです。
そういえば「アウトレイジ」はシリーズ通して、食事のシーンもたくさん出てくるんですよ。会合と言えばやはりいい料亭、いいレストランですから。ヤクザはおいしいご飯をもりもりと食べ、オラオラと人を怒鳴り、そして虫けらのようにあっけなく死んでゆくのです……。それにしても出所記念パーティーの主役の人、ただムショから出てきただけなのに殺されて気の毒だった。狙った相手は来場しなかったにも関わらず、大友の憂さ晴らしのように撃ち殺されました。やっと娑婆に出られたというのに、とばっちり過ぎる。
ラストは流石にこれで「アウトレイジ」続編が見たい!という声はないだろうというくらい、最終章らしく幕が閉じられました。カタルシスが半端ない。もう、何もかもが無常……。なんというか、もう「アウトレイジ」の物語は続かないのだろうなあという悲しみと、でもまた大友が辛い目に遭うのも可哀想だしなあという気持ちと、色んな感情が入り混じりましたよ。だけどキラ子の周囲、リアルであんまりこの映画見てる人がいなくてさ!! ずっとこの気持ちをどこかに吐き出したかったのです! それが今! 叶った!!(うるさい)
結局、どんな映画なの?
これはどの北野映画にも言えることなんですけどね。かっこ良かろうと悪かろうと、北野映画には「ダメな奴はどこまでいってもダメ」という一貫したテーマがあります。もちろん、ダメなんだけど愛すべき人、ダメなんだけど本人なりに一所懸命な人、何もかもがダメで救いようがない人、と色々出てくるんですけども。「アウトレイジ」は、そんなダメな大人がダメなりに頑張ってもやっぱりダメということをちょっと派手目に見せてる映画だとキラ子は思います。
普通の映画、というか物語というものは、人が色々な事象を通じて成長してゆき、その過程をドラマティックに見せることで人を感動させるものなんですが、北野映画に描かれる大人って、ま〜とにかく変わらない。成長しません。それは即ち信念を曲げないということであったり、ただ不器用であったりするのですがね。「キッズリターン」ではまだまだ成長しそうな若者二人が主役です。でもやっぱり何をしてもダメで、最後に「俺たちもう終わったのかな?」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」と言わせるところに少し希望はあるけども、やってることが校庭で自転車の二人乗り。「やっぱりダメかも」って思わなくもない。けれども若い二人は眩しいほどの若さにあふれてる。だから好きなんですよ!
そんな「キッズリターン」にもたくさんのダメな大人は出てきます。若い二人を導くべき立場である大人たちがどれもこれもどうしようもないのです。
北野映画は、というか北野監督は、そんな成長もしようにない不器用な大人たちを、淡々と映し出していきます。感動的にもっと見せようと思えばできるシーンはたくさんあるのですが、そういう安易なお涙頂戴は一切無視。「アウトレイジ」は特にそれが顕著で、ワーワー怒鳴ってたあのおじさんもこのおじさんも、死ぬ時は一瞬です。雑に殺されていく無数の命はとてもはかないものですが、美しさには欠けています。あえてそうしているんだというのは見ていればわかります。
かつて昭和の一世を風靡したヤクザ映画は、暴対法ができてからあまり作られなくなっていきました。ヤクザを賛美し過ぎだという理由からです。実際映画に憧れてヤクザになった人とかもいるでしょうし、ヤクザはヤクザで映画で描かれているヤクザだとカッコつけたりもしていたでしょう。暴対法の影響もあってか、今、もうヤクザになりたいという若者も昔ほど多くはないようです。若者のヤクザ離れ、そして進むヤクザの高齢化問題。限界集落のようだ。しかもヤクザはそのままの名義では家も借りられないしクルマも買えません(それでもあの手この手で購入する)。だから、ヤクザではない半グレなどというやっかいな集団が出てくるんです。これはこれで困り者ですが、そんな彼らを老いたヤクザがぶっとばす「ビヨンド」と「最終章」の間に作られた「龍三と七人の子分たち」という元ヤクザvsヤカラの映画も面白いんですよ!
しかし北野映画に出てくるヤクザはどのヤクザもキレやすいダメな人たちの集まりとして描かれて、何かというと銃もってバンバンバン。かつてのヤクザ映画がみせていた侠気にも無縁です。仇討ち、復讐、下克上なんでもござれ。仁義を切るヤクザとか、全然出てきませんからね。上にはへつらい下には偉そうで、実社会のどこでもいるようなおじさんが強面して、わちゃわちゃした挙句皆死んでしまうだけなんですよ。それこそ富野作品かってくらい、クライマックスとか関係なく死ぬ。死んだら後には僅かな遺恨以外、何も残りません。
それにしても北野監督ってどうしてこんなにダメ人間ばかり描くのでしょうか。やはり自身、ずっと芸人としてテレビ業界で生きてきた人ですからね。芸能人や芸人という浮き沈みの激しい人たちを間近で見てきて、色々と思うところもあるのではないでしょうか。飛び抜けた才能を持ちながら、ほかの生活能力の一切がダメな人とかもたくさん見てきたでしょうし。そういう人を「あいつはダメだから」と切り捨てるのは簡単ですが、北野監督はそんな人たちもどこかで愛おしいって気持ちがあるのではないかなと思います。ダメな人にはダメな人の魅力があるんですよ。わからない人にはわからないと思うんだけど。そのダメな人の集大成として描かれるヤクザがこれでもかと命を燃やして消えてゆくのが「アウトレイジ」です。
監督自身は「アウトレイジ」を作った理由として、人が死ぬシーンを描きたかったと語っています。しかし現実問題として、そうぽんぽんと人は死にません。だったらどんな状況ならひどい殺され方をするか? と突き詰めたら結局、ヤクザが一番向いてるだろうという話になったそうです。それにヤクザが身内の都合でわちゃわちゃしながら死んでいくのはポリコレ的にも各方面から怒られにくいです。
実際、これだけメチャクチャをやっているにもかかわらず、微妙に配慮が感じられるシーンがあるんですよ。たとえば、車。詳しい人が見ればもちろん車種なんて簡単に特定できるのですが、そうでない人にはなんか黒塗りの高級車ということしかわからず、エンブレムがうつっても一瞬で認識しづらくなっています! だから走ってる時も正面からは俯瞰の映像が多く、近いときは車は横向きのことが多いです。どんな高級車もヤクザが乗っているというだけでイメージが悪いですし、ド派手なカーチェイスもありますからね。この記事のためにDVD見返してて発見しました。なんか現代って色々表現するだけで大変ですね。そりゃ映画業界の皆、ありえない設定の漫画原作に頼りたくなるというものです……何か言われても原作があるしそもそもフィクションですからと言い逃れできますし。うーん切ない。
ま、ともあれ「アウトレイジ」シリーズ、騙されたと思って一度は見て下さい! 椎名桔平かっこ良いから!(とにかくそれが言いたいだけのキラ子) でもね、R15+指定だからか、ネット配信が一切ないんですよ。それでこの間、日本映画チャンネルが大々的に宣伝していたんだな〜。とはいえセルDVDもブルーレイも、レンタル等では普通に取扱がありますので。未見の方は是非キラ子の解説したみどころなどを意識しつつご覧になられるとちょっと面白いかなと思います〜!