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SS【失われしもの】♯毎週ショートショート
お題「会員制の粉雪」
【失われしもの】(410文字)
重い扉を開けると、冷気とともに白い粒が僕の顔に当たった。
これが…粉雪?
「会員証を」
ドアマンの男が言う。
僕は胸ポケットから会員証を出した。男があらためる。
僕は少し緊張する。実は道で拾った分厚い財布に入っていたものなのだ。
男はにっこりと微笑んで僕に会員証を返し、コートを貸してくれる。
「ごゆっくり『会員制の粉雪』をお楽しみくださいませ」
部屋の中は、うす暗く寒い。
僕は宙に舞っている白いものを手の平で受けるが、すぐに溶けてしまう。
なんて儚く優しいのだろう…。
僕は外の酷暑を思い出す。永遠に終わらない暑さ。
そして終わらない戦争。
地球から、季節も優しさも失われて久しい。僕は身震いした。寒さのせいだけではない。素性を偽ればスパイとみなされて死刑だ。
でも僕は危険を冒してでも、失われた季節と優しさを感じたかった。
ふいに後ろから肩を掴まれた。
「おい」
憲兵の声。
でも後悔はない。僕は失われしものを見たのだから。
粉雪が、静かに舞っている。
おわり
(2024/1/9 作)
たらはかに様の1/07~1/13のイベントに参加させていただきました☆
ほんとのお題は『会費制の粉雪』だったとか。
そうなると、きっと全く違うお話になっただろうなぁ…と思うと、人生にもよく似たことが頻繁に起こっている気がして感慨深く感じました。
(*´ω`*)
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