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掌編小説【イチゴジャム】
お題「クリスマスの朝」
【イチゴジャム】
クリスマスの朝、枕元を見てびっくりした。
僕はサンタさんにリクエストするためにロボットの絵を描いておいたのだ。
僕、こんなロボットが欲しいんです!
なのに、そこにあったのは僕が描いたのとは違うロボットの絵だった。その時の僕の気持ちをどう言い表せばいいんだろう。がっかり…じゃない、うれしい…でもない。でもそのロボットはなぜか僕の心をしっかりつかんで離さなかった。ロボットというより、なんだか…ちいさな男の子みたいだったから。
僕は台所に行って、朝ごはんのトーストをかじっている父に絵を見せた。
「これが枕元に置いてあったよ」
「サンタさんからか?」
「たぶんね」
「気に入ったか?」
「うん」
「そうか」
そう言って、父は僕のためにパンを焼いてイチゴジャムを塗ってくれた。
たしかに僕はその絵を気に入った。部屋の壁に貼って『ロボ太』って名前まで付けて毎日話しかけるようになった。僕は本当はロボットより弟がほしかったけど、母は僕が赤ちゃんの時に死んじゃったから。
僕は次の年のクリスマスイヴにもロボットの絵を描いて枕元に置いた。今年もサンタさんは絵を描いてくれるだろうか…。
朝、目を覚ますと、やっぱり絵が置いてあった。そのロボットは去年よりも成長した感じで、色もちゃんと塗られていた。
「ロボ太が大きくなったよ」
朝ごはんのトーストをかじっている父に絵を見せた。
「よかったな」
「うん」
そして父は、僕のためにパンを焼いてイチゴジャムを塗ってくれた。
僕は毎年枕元にロボットの絵を描いておいた。すると翌朝には必ず成長したロボ太の絵が置いてあった。僕の部屋の壁は歴代のロボ太でいっぱいになった。父は毎年知らん顔してトーストをかじっていた。たまに指先に絵の具が付いていたけど。
僕は大学に入ってロボット工学を学び始めた。高校時代にはロボット競技大会で優勝もしていた。それでも昨年のクリスマスまで枕元には成長を続けるロボ太の絵が置かれていて、朝にはお決まりの会話があった。
「ロボ太が大きくなったよ」
「よかったな」
そして父は僕のためにパンを焼きイチゴジャムを塗ってくれるのだ。僕が自分で焼くようになってからも、クリスマスの朝だけは父が焼いてくれた。
でも今年のクリスマスは朝ごはんのトーストをかじっている父の姿がない。年の初めに脳梗塞になり、ほぼ寝たきりになってしまったから。僕は、父のためにパンを焼いてイチゴジャムを塗った。いつも父がしてくれたみたいに。そして父の枕元に行った。
父が僕の方を見て不自由な声で言う。
「…起きたら…こいつが…いたぞ」
僕が父に聞く。
「気に入った?」
「…ああ」
「よかった」
エプロンを付けた介護用ロボットが父の隣に立っている。
「ロボ太がホンモノになったね」
「…立派に…育ったな」
「父さんのおかげだよ」
ロボ太はイチゴジャムのトーストを器用にはさんで父の口元に近付ける。父が一口かじる。
「おいしい?」
だまってうなずく父の目に浮かんだ水滴を、ロボ太はそっとティッシュでぬぐった。
おわり (2022/12/24 作)
……『クリスマス』って華やかすぎるのか、意外とお話が思いつきにくい…(;・∀・)
華やかなお話も書いてみたいけどな~
そういうストックが私の中にないのですね…
以下は、二年前に書いたものですが、あまり読まれてませんのでよろしければ~(やっぱり華はないけど)
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