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SS【約束】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「三月に」に参加させていただきます☆

お題「三月に」から始まる物語

【約束】(600文字)

三月には帰ると言ったきり、どれほどの年月が経っただろう。
『何年の?』とは聞かなかったのだから、文句は言えない。
わかった、待ってるね。
そんな気軽な見送りだった。

だから三月になると心がざわめく。
三十一日間ものあいだ、今日こそ帰ってくるかもしれない、と思う。
つい、食材も買い過ぎる。
あの人が好きだったもの、でも私はそうでもないものは冷蔵庫で朽ちる。
朽ちたものを捨てる。
また買いに行く。

四月になるとホッとする。
来年の三月までは、きっと帰らないから。
それでも時々思う。
今頃どうしているかしら…

あの人は決して嘘をつかない。
私はこれからも三月だけを待ち続ける。

・・・・・

三月には帰ると言ったきり、どれほどの年月が経っただろう。
『何年の』とは言わなかったのだから、嘘はついていない。
わかった、待ってるね。
軽やかな君の声に見送られて。

しかし三月になると心がざわめく。
三十一日間ものあいだ、きっと君が待っているだろうと思うから。
つい、君が好きそうなものを探してしまう。
でも僕には使い道のないものは、古びてしまう。
古びたものを捨てる。
しかし、また探しに行く。

四月になるとホッとする。
来年の三月までは、帰らなくてもいいから。
それでも時々思う。
今頃どうしているだろう…

君は決して嘘をつかない。
僕はこれからも君だけを想い続ける。
いつか三月に帰るために。


でも僕はいったい、どこにいるのだろう。

約束の三月が
また巡ってきたというのに。




おわり

© 2025/3/1  ikue.m


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