掌編小説【ハナちゃん】
お題「競馬」
「ハナちゃん」
「ハナちゃん、待ってよー」
僕は情けない声を出して彼女を呼んだ。彼女は優雅に振り向いて、その場でトントンと足踏みしながら僕を待っている。
でもすぐに赤いスカートを翻して駆けていく。竹馬がサラブレッドみたいに見える。
「ケイタ、もっとがんばらないと勝てないよ」
竹馬は当時ずいぶんと流行っていて、学校で「竹競馬大会」が催されることになった。
その時、ハナちゃんが言ったのだ。
「ケイタ、実は私ね、その日に引越すんだ」
「えっ」
「これからはケイタ一人でちゃんとやるんだよ。イジめられないように」
ハナちゃんは続けた。
「ケイタは今度の竹競馬大会で優勝するの。そうすれば、絶対にイジめられないから」
大会当日は引越しの日だった。僕が走っている最中にハナちゃんは街を出ていくだろう。
「よーい、ドン!」
竹馬が一斉に走り出す。僕は必死で竹馬を操った。「ハナちゃん、ハナちゃん」僕は名前を唱えながらリズムをとって走った。これが一番早く走れる事を発見したのだ。
ハナちゃん、ハナちゃん、僕はひたすらハナちゃんの名前を唱えながら走った。
気づくと前には誰もいなかった。ハナちゃん、ハナちゃん、僕は一番でゴールした。
でもハナちゃんはいなかった。
おわり (2020/3 作)
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