掌編小説【四年に一度】
お題「オリンピック」
「四年に一度」
久しぶりの親子団らんだ。僕は40歳。母は36歳、父は44歳
僕は3年おきに目覚めて1年間活動する。だから4年に一度しか年をとらない。生まれた時にそれを決定するのは親の権限なのだが、僕は4年にされたのである。人によって年数はさまざまだ。そんなシステムが作られた理由は、21世紀後半に突然変異したウィルスが蔓延し人口が激減したためだ。大量死のリスクを回避して人類を生き延びさせようと、コールドスリープの技術が実用化され、さまざまな周期で人は活動と休眠を繰り返すようになった。
ちなみに僕に設定された「4」はあまり人気のない数である。なのに私の両親は僕を「4年に一度」に設定した。両親はそれぞれ母が10年と父が8年なので、母が20歳、父が24歳の時に僕が生まれたのだが、僕は今回母の年を追い越してしまった。次に会う時には父も追い越してしまうだろう。
「どうして僕を4に設定したのさ。母さんを追い越しちゃったじゃないか」
自分よりも若い母というのは世間的にめずらしくはないが、やはり違和感はある。
シワの少ないツヤツヤした顔で母は懐かしそうに目を細めて言った。
「昔々ね、4年に一度世界中で一番スポーツが得意な人たちが集まって、オリンピックっていう運動会をしてたんだって。お父さんと初めてデートとした時、ライブラリーでその映像一緒に観たのよ。アイスダンスだったわね。とってもロマンティックで素敵だったのよ。その後、お父さんとマネして踊って。お父さんたら耳元で『とてもきれいだよ』なんてささやいたりしてねー!だから初デートにちなんで生まれた子は4年にしようって」
「ああ懐かしいなぁ。もう160年も前になるか。君は今でもきれいだねぇ」
「やだー、あなたったらっ」
そんな理由で「4」・・・。まぁ今でも二人が仲良しなのは子どもとしてはうれしい。
こんなシステムの時代だから、昔ほど人とのつながりが濃くなりにくい。だが逆に、共に過ごせる時間が短いせいか争いは減っている。誰だって、次はいつ会えるかわからない。もう会えないかもしれない。そう思えばケンカもできない。
それは今のようなシステムがなかった時代でも同じだったはずだが、「今しかない」という気持ちの強さがきっと違うのだろう。
そのためか世界からは戦争も消えた。いつ目覚めても世界は穏やかだ。
誰もが、次に目覚める時にも世界が平和であるように一年間を大切に生きる。
僕は過去の「オリンピック」に想いを馳せた。昔の人々は競争を楽しんでいたらしい。でも今の世界ではオリンピックは開催されない。それは争いも競争も必要ない世界だからだ。
隣では両親が微笑み合っている。僕は幸せな気持ちでそれを見ている。
おわり (2020/2 作)