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掌編小説【茶わん】
お題「宇宙遊泳」
「茶わん」
茶わんが目の前を飛んだ。
壁にぶつかったら割れてしまう。そう思った私は目をギュッとつぶって部屋を無重力にした。部屋中のモノや人が宙にぷかぷかと浮いた。飛んでいた茶わんも割れずに浮いてる。
私はクルンとひっくり返って逆さまになってみた。お父さんとお母さんは両手足をバタバタさせて慌ててる。ばかだなぁ、宇宙遊泳ではプールに浮かんでいる時みたいに力を抜くのがコツなんだ。大人はなんにも知らない。
私は部屋の中を背泳ぎするみたいに天井を見ながら泳いだ。泳いでいるうちに天井も壁も床も消えた。私はどんどん泳いでいった。隣のポチが犬かきしてる。私はポチのふわふわした毛をなでながら一緒に泳いでいった。しばらくしたら、いじめっ子のケンタが私の方に流れてきたからドンッて押し返してやった。ケンタは「なにすんだよー」と言いながら離れていった。
ガチャン!
私は目を開けて割れた茶わんを見た。赤と青の花模様の茶わん。この夫婦茶わんは私が修学旅行でおみやげに買ってきたやつだ。お父さんとお母さんのために。
二人はケンカし続けている。私は割れた茶わんを見た。視野がかすむ。
もう一度宇宙遊泳に行こうとしたけど、どうしてもうまくできない。
おわり (2020/2 作)
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