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詩みたいな【キャンプ】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「寒い日に」に参加させていただきます☆

お題「寒い日に」から始まる物語

【キャンプ】(580文字)

寒い日には、あえて窓を開ける。
ぱーーーん、と勢いよく。
北風がぴゅうーと吹き込む。
でも私は、へっちゃら。
完全にアウトドアスタイルだから。
ダウンコートにマフラー、毛糸の帽子、モコモコの靴下。

さて、ここからお家キャンプのはじまり、はじまり。
寒さからは逃げるのではなく楽しむのだ。

熱々のコーヒーを入れたポットを、窓際の文机に置く。
朝ごはんのサンドイッチと板チョコ、詩集も忘れずに。
座椅子に体を丸め、ひざ下にはブランケット。
琺瑯のマグカップにコーヒーを注ぎ
両手でカップを包み込んで、目を閉じる。
顔を近づけて、カップの縁にキスをする。

それから、コーヒーをすする。
冷たい唇から舌、そして喉、お腹の底へ
順番に温もりが伝わっていく。
ホッ、と息を吐く。
コーヒーは、一口めが最高。

次に、サンドイッチをつまむ。
指はピンと伸ばして
柔らかいパンを、そうっと優しく
王妃さまみたいに気取って。
庶民的な、たまごサンドだけどね。

しばらくは何も考えずにパンを食べ
ゆっくりとコーヒーを飲み
時々チョコレートをかじる。
食べ終えたら本を開き
大好きな詩人のことばをたどる。

『…一日にいい時間をつくるんだ。
とても単純なことだ。
とても単純なことが、単純にはできない。』※

寒い日に、いい時間をつくることができたかな。
うん、今日はもうこれでいい。

寒い日の、お家キャンプ。
朝の明るい光と北風が
いい時間の中を流れていく。



おわり

※【食卓一期一会】長田弘「いい時間のつくりかた」より】



© 2025/2/2  ikue.m

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