『19』私がスイス🇨🇭に旅立つ訳:ツインレイの軌跡:
近所の奥さん
私は毎年冬に家の前の雪かきをしていた。もう15回目の冬だ。
その度に、こんな力仕事をするなんて私はなんと逞しいのだろうと客観的に思った。生きている実感を持つことができた。
でも、この冬が最後だと決めていた。身体も限界だった。
一緒に住む義父も年々雪かきが難しくなっていたので、私はヨシにマンションに引っ越す提案をしていた。
でも彼は軽く流していた。
10月、雪が降る前に「本当に私は限界だから、この冬で最後にする。」と私はヨシに言っていた。彼は全く本気にしていなかったけれど。
雪かきで外に出ると、近所の人によく会った。
その日も私がいつものように一人で雪かきをしていると、近所の65歳くらいの奥さんが話しかけてきた。
彼女と私はお互いの犬がまだ生きていた頃によく話していた仲だった。
「〇〇さんちには留学生が住んでいるの?」
「はい。ご興味ありますか?」
「〇〇さんの家はオープンな家なんですね。」
「そうでもないですよ。留学生がいてくれるから、少し風通しはよいですけど、そうでなかったら私はいつも部屋で引きこもっています。」
すると彼女は「うちは家庭内別居で夫と口も聞いていないから・・・・彼は今で言えば適応障害とかなんだと思う。私はもっと早く離婚でもして家を出ればよかったんだけど、もうこの歳になってしまったら自分でアパートを探すことさえもできないし、考えることも億劫で・・・・今まで主人や子供や周りに合わせるだけの人生だったから、実際自分がどうしたいのかさえも分からなくて、時間だけが経ってしまった。こんなこと言うのはなんだけど、今は夫が早く死んでくれることを待つしかないの。でもあなたは若い。今ならまだなんでもできるわよ。私も10年前ならできたと思うもの。」
どうして彼女が突然そんな話をしたのか本当に不思議だ。
私の住んでいた家の近辺は高級住宅街の一つだった。経済的にはみんな豊かに見えるし、人も穏やかで余裕のある人ばかりに感じていた。でも、人の心の中身は目には見えない。
彼女の言葉は神様からのメッセージのように思えた。
その頃、私はこのような体験を沢山した。
挨拶しかしない程度の知り合いから自分にとってその時必要な言葉を聞いたり、長年会っていなかった人にばったり会って助けられる事もあった。
金の鳥籠
フローはその当時の私の状況を金の鳥籠と呼んでいた。
私は都会からそう遠くない自然豊かな場所で庭付きの大きな家に住んでいた。友達も沢山いた。専業主婦でのんびり暮らすことができていた。
私は誰と結婚したところで同じだろうと思っていた。実際ほとんどが自分の考え方次第で変えられると思っていたし、このまま平穏にヨシとやっていくのもありだと思っていた。フローと繋がるまでは。
90パーセントの幸せは自分次第で作れる自信があった。でも残りの10パーセントは自分の努力では無理だとわかっていた。
ある人に「浮気はしたことがある?」と聞かれたことがあった。
私は即座に「ないし、興味もない。ただ、もし、その人に来て欲しいと言われたら、私は全てを捨てても行く!とずっと思っている人はいる。」と言ったことがある。それがフローだ。
当時の家に娘の飼っているインコがいた。名前はスカイ。彼の鳥籠の扉はいつも開け放されていた。私が誰も何も閉じ止めたくなかったからだ。彼は朝になると鏡の前に飛んでいく。そして一日中鏡に映る自分に話しかけている。彼はここにいても十分幸せだ。外の世界を知らないから。
でも彼が外に憧れて本当に窓の外へ行ってしまったら、冬には死んでしまうだろう。
私は自分と重ね合わせた。
私はここから本当に出ることができるだろうか。
その後はどうなるだろうか。
でも、例え凍えて餓死したとしても、外の世界があると知ってしまったら行かずにはいられない。
ここで平穏に生きながらえることに意味があるんだろうか。
私は例え長く平穏に暮らせたとしても一生後悔するに違いない。
私はここから出る。
本当の馬鹿かもしれない。
でも金の鳥籠から出る。
その後の現実も自分で創れるはず。
そして3月の末、娘の大学が決定して間も無く、私はヨシに離婚を切り出した。