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絶望的で最高

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「どうして星はきらきらしているの?」とバイト先に置いてある本に書いてあった。答えは「ゆらぎ」があるから。空気がゆらいでいるから星が瞬く。それは人間も同じだと思った。

写真家の弟子を辞めた。「なんでもっと早く辞めなかったの?見ていて本当に辛かったよ」と辞めた後に周りの人何人かに言われた。たまにしか会わない、仕事で関わっていた方たちからもそう言われるくらい、側から見ていて色々とヤバかったんだと思う。

100万円の犬を買い逃してしまって辛いという相談メールをラジオに送ったら、ジェーン・スーさんに「この人文章書いてみたら?」と言われたので文章で人生相談を受ける副業を始めた。スーさんの言ってることはそういうことじゃないんだとは思うんだけど、今の所わたしにはそれだけ。noteも始めてみたけど、イマイチ使いこなせないままで、顔も知らない誰かの人生相談に対する答えを文章で送っている。

弟子時代に「独立しても絶対にアルバイトだけはするな」と言われていたので、早速アルバイトを始めた。写真に全く関係のないアルバイト。宇宙に関する施設で、チケットを売ったり、火星から送られてくる写真を見比べて活動痕跡を探したり、ロボット型ボールを操作したりしている。

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バイト中、博識で聡明で丁寧な小学5年生の女の子に「火星にも風は吹くんですか?」と真っ直ぐな瞳で聞かれた。その瞬間、途方もなく泣きたくなった。そんなこと人生で考えた事なかった。ここより何万キロも離れた遠い惑星に吹く風の事を思った。そんな私の横で東大の先生は極めて冷静に「吹きますよ。地球よりも弱い風ですが」と答えていた。その日その女の子は火星の活動痕跡を2つも見つけた。あなたが大人になる頃にはまたいろんな科学が解明されているんだということを話した。わたしの話を聞いて未来に想いを馳せる彼女のことが、どうしようもなく羨ましかった。

命が服着て歩いてる。若い命を見るとそう思う。それと同時に、彼ら彼女らは圧倒的に「未来」なんだなとも思う。写真は未来を写すことができるのかな?とか考える。写真は撮った側から過去になっていって、写真になる瞬間には常に「近過去」。運命と未来はまた別。過去と記憶もまた別の話。

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何気ない毎日が風のようにすぎていく。昔好きだった人に貰った音楽。思い出の味。今はもうない場所。無くなったから永遠になった。首に残る傷。見えないところにあるホクロ。好きだった人がくれた言葉。嘘みたいな流れ星。

そう、メチャクチャ。ルールがないの。夢だから。何しても自由。誰を好きになってもいいし、好きな子に何してもいいの。キスしても、殺しても。

これは私の好きな映画の台詞。その映画のヒロインの彼女の写真を撮ったことがある。彼女はまだ17歳で、私はまだ21歳だった。ロケバスの中でマスクの袋を叩いてる私を見て「…何してるんですか?」って話しかけてくれた。不審者を見るような目で。そりゃそうだ。

私の天使。3日間くらい一緒に過ごして、私が先に撮影現場から帰るとき、見えなくなるまで手を振ってくれた。ロケバスの窓から身を乗り出して。咲いたばかりのお花のようにかわいかった。17歳の菜奈ちゃん。撮影現場で一番年齢が近かった。上京してスタジオマンになって撮影現場で再会したとき、私の手に彼女の手を合わせて「お久しぶりです」って言ってくれた。屈託のない笑顔。彼女は何も変わらなくて、本当にこんな子いるんだって思った。

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彼女の写真集を撮りたいと思って、でも連絡する勇気はない。蒼井優のトラベルサンドみたいな写真集撮りたいなって話したことがあって、それからもう何年も経つけど、今もその目標は変わってない。知らない国に行って、2人だけで写真を撮りたい。世界旅行という言葉は嫌いで、だってどこまで行っても地球だしって思うけど、地球のどこかの綺麗な場所で彼女の写真を撮ってみたい。

「どうしても営業にいきたくないです。私はどうやったら営業に行けますか?」というこれ以上ないくらい甘ったれた相談をラジオにメールしたら採用されてしまった。ジェーン・スーさんとアナウンサーの小倉さんと「カメラを止めるな!」の上田監督が答えてくれた。「この人は営業行かなくていいでしょ」って言われた。上田監督がそう言ってくれるなら、自分の気が向くまで営業行かなくていいやって思った。無理して営業行って、編集の人に「雰囲気系の写真とかいらないんですよね。女性カメラマンはもっとエロくないと。●●さんみたいに、谷間とか出して撮影来たりしてさ」みたいに言われるのしんどいし。

悲しいのに明るくて切ない歌っていいよね。弟子時代に仕事で行った沖縄で夜にスナックに連れて行かれ歌え歌えと言われたのでユーミンの青春のリグレットを歌ったら別の席にいた全然知らないおじさんから「りなちゃん、最高!!!旦那さん大変そう!!!」という野次を飛ばされてとても良かった。良い思い出。

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バイト先の展示エリアに、宇宙の匂いを再現したアロマが入った瓶が置いてある。宇宙遊泳から戻ってきた宇宙飛行士の宇宙服は、少し焦げたラズベリーのような香りがするらしい。それを忠実に再現したアロマ。そういえばきちんと嗅いだことがなかったなと思い、館内に人も少なかったので、バイト中にこっそり匂いを嗅いでみた。その瞬間、私の身体と脳は遠く離れた仙台の実家の2階の両親の寝室にある父の書斎にワープした。宇宙の香りは、父の匂いがした。宇宙と星が好きで、隕石を集めている父。父はやっぱり宇宙から来たんだなと、妙に納得した。父の書斎で光を浴びる月面図を思い出した。そこから遠く遠く離れた東京のビルの8階で。

写真を撮る上でこれだけはやらないと決めていること。下品な表現。汚いもの。誰かを不快な気持ちにさせるもの。私はやらない。他の人がやればいい。

私は憧れを持ち続けることができる。いつだって、過去にも未来にも戻れる。もし時間が目に見えたら、とよく考える。時間はごうごう音を立てて、目の前を流れている。とても怖い。いろんなことを考える。現実は想像以上にグロテスク。死ぬのはいつも他人である。

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神さまは気まぐれ。怒りっぽくて理想主義的。でも、信じてる。

目に見えないものを写真に撮りたいと常に思っている。命も時間も愛も血も目に見えない。光も、本当は目に見えてないかもしれない。良い言葉に出会ったら泣いちゃうよ。こないだ昔の憧れにぶつかった。偶然。家の近所。写真家の人で、写真を撮っていた。その瞬間その人が撮っていた写真が雑誌に載っていた。赤いスカイライン。ペンタ67のシャッター音。未来は地続き。サンマが焼けるまでの写真。

私のお守り。過去の記憶全て。家族。誰かに愛されたという事実。私の涙は嘘みたいに大粒。ぽろぽろしてる。空気は揺れて、それが誰かに届く。まだ死にたくない。影ができるくらい強い光の流れ星。今はもう海になった場所。

嘘をついた東海道新幹線。でも、嘘をついてまで、本当のことを話したかった。多分全てばれていた。その人の優しさに感謝してる。また会える日が来るのかな。また私の話で笑ってくれるかな。外苑前の雑なイタリアン。食べきれなかったニョッキと白ワイン。「でも弟子を辞めて、これからどうやって生きていくの?」と聞かれ、答えられなくて途方に暮れて、力なく笑った7月の夜。雑な音質で流れるABBAのダンシング・クイーン。

過去の未来を生きている。なーんにもない今が最高。今が人生で一番自由。私には何にもないから、何でもできる。どんな写真を撮ってもいいし、他人と喋っても怒られないし、文章だって書いていい。

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「負けないで。佐々木ちゃんの才能を応援してる」とこないだ電話で言われた。嬉しくて、悲しくて、買ったばかりの手帳に書いた。いろんなことをすぐに忘れるので、私は、写真を撮ったり、日記を書いたりしている。それはそれは昔、ほんとにもうずっと昔、10歳の時から。

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