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【歌になりそうな、いやならなそうなリリック・始まらずに失われた恋の話について】


〜酒井くんに捧ぐ〜

恋の話をしようか
ずっと昔の
角の駄菓子屋のおばあが
まだ白いワンピースを
風にはらませていた頃の
始まらずに失われてしまった恋の話を

あの日は朝から雨が降っていて
私は頬杖をついていた
雨の居心地は悪くなかった
いつもより音が大きく聞こえる以外は

走ってくる足音に目をやると
あの人がもう通り過ぎるところだった
背中に盛大にドロを跳ね上げて
カバンを頭に抱えて

すぎてゆく後ろ姿は
すぐに雨にけぶって
また私はひとりになった
耳の中にはずっと雨を蹴る
あの人の足音が鳴っていた

もっとよく聞こうと
耳をすませると
足音はもう聞こえなかった

そんな始まらずに失われた恋の話が
カクテルの中には
たくさん沈んでいるんですよ

意味ありげに若そうだけど
年齢不詳なバーテンダーが
おかわりのピニャコラーダを
コースターに置いた

私はマドラーを回して
下に沈んだホワイト・ラムを
上のパイナップルジュースと
ぐるぐる混ぜながら
始まらずに失われた恋を
一気にあおった


ーー了ーー

やはりさっきの投稿で書いた酒井くんに感じた気持ちは恋だったのかもしれない。詩が降りてきたので。なんてな。#もう寝よう

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