【アーモンドを読んだ。そして対話】
一番心に残ったセリフ。
「例えば、こうやって君と私が向かい合って座って、しゃべってるみたいなこと。一緒に何か食べたり、考えを共有すること。金のやり取りなしにお互いのために時間を使うこと。そういうのを親しいって言うんだ」
遠方の友人が「断捨離だから」と優しいハグを付けて『アーモンド』を送ってくれた。(ナッツ類ではない)
しばらく前に本屋で平積みを見かけて、いつか読みたいと思っていた本だったのでお申し出があったときにありがたくお受けした。
それがたとえなんらかの意図がある社交辞令でも、私の遠慮へのエクスキューズでも、察する力が弱い私には考えても分からぬし、細かく問いただせばそれは失礼だとも思うので、真意が分からない以上は全て「これはハグだな」と受け止めてじんわりオキシトシンを分泌させるのが私の作法。(何が言いたいのかちょっとわからない)
思わぬ方向から思わぬ形で届いた元気玉。ありがとーーーーう(私信)
アーモンド、読みやすい文章で、あっという間に読めてしまった。
昨日の朝届いて、さっそく開けて、横で皿を洗ってくれている旦那に気を遣ってパラパラと20ページくらい聴こえるように音読したら迷惑そうにされたので今度は黙読し始めたら「今日は早めに(仕事に)出るよ」と明らかに不快感を表明されたので読むのを中断して旦那の出勤時間までは旦那と雑談に興じた(最近話題のclubhouseについて)。
私の気遣いはいつもちょっとばかり的外れなのだ。音読をやめた時にそのまま読むのもやめるべきだった。ていうか皿を洗ってくれてる間に掃除機のひとつもかければ良かったのだ。いつも後から気づくのだけど。(鱗滝さんコッチです)
雑談が楽しかったのか、それなりにご機嫌で旦那が出勤して、スマホやらテレビやらの子どもたちと三々五々のおうち時間、読むのを再開したので、昼過ぎに読み終わったことを考えると実質3時間くらいで読めたのではないかしら。お昼のパスタを茹でながらこの感想を書き始めた。
(感想はなんだかんだ中断して書き終わったのが翌日の夕方になったので後から時勢を直すのがめんどくさかった)
私は特に速読とかできる方じゃないから、3時間で読めたのなら、それだけの文字数だったってことなんだろうと思う。最近の本って行間広くない?最近ちゃんと出版された文章をとんと読んでいなかったので、文字の少なさに驚いた。ワンセンテンスも少ない。
そうか、私たちは圧倒的にTwitter的に生きているんだな。
かつてどこに主語があってどこに述語があるのか、中国の伝説の蛇のように長くてページを跨いでしまうような叙述に慣れてしまった昭和の文学少女は、淡々と食べやすく切り取られた文章の清潔さに肩すかしを食う。
ルマンドが豆粒大の一口サイズになる時代だもの。葉巻サイズのルマンドをバリバリにこぼしながら食べていた私たちの口からはみ出る余情はもう過去の遺物。
漱石先生ですらもワンセンテンスに四つくらいの配列叙述を繋げた時代は遠い。このまま進化すると、読点はいつか淘汰されるんじゃなかろうか。全部句点。いやはや。
ぐいぐい引き込まれた、というより気がついたら読み終わった、という感覚。しかし私はいろんな人の書いた文章を読みやすくするという仕事も時たましているので、すらすらと最後まで読者の視線を止まらせずに読ませる文章がいかにすごいか、ということを知っている。徹頭徹尾知っている。
だからまず惜しみない賞賛を贈る。素晴らしい筆力。一握りの人しか持つことができない素晴らしい文才だと思う。ノンストップ読ませ力。すごい。
そういうわけで、残りは好みの問題なのだ。職業人としてじゃなく、純粋に読書人としての私の。作者が映画脚本とかそっち出身というのもまた嗜好の問題としてはあるのかもしれない。場面や言葉の切り取り方というか。一気に読めてひっかかりがあまりにも無かった。良くも悪くも。
没入しにくい昼のど真ん中に読んだのもいけなかったのかもしれない。あとはこの物語が主人公のアレキシサイミア(失感情症)の少年目線で描かれたからかもしれない。ともあれ帯の感動は私には見つけられなかった。残念。
本屋大賞受賞。紛うことなき本好きの人たちから圧倒的に支持されているのだから、私の好みが世の中の時流と離れているのだろう。それはまぁそうだろう。(謎の自信)
韓国人の作家さんの文壇デビュー作。出産という神秘体験でインスピレーションを得て、子育て中に赤子の横で一気に書き上げ、3年推敲して世に出したのだとか。すごいな。(語彙)
鬼滅の刃といい、進撃の巨人といい、ちょっと遡ってワンピースといい、鮮烈デビューでミリオンセラーが最近の出版あるあるなのかしら。まぁ例に挙げたのは全部漫画なのだけど。
(漫画蔑視の父から嘆かわしいと言われそうだ…でも父が好きなジェフリーアーチャーと『チ。天動説』を比べたらチの方がある種哲学的だと思うけど)
最近ちゃんと本読んでなかった。前に読んだのは君の膵臓をたべたいかな。あとよるのばけもの。思えばどっちも住野よるさんだ。
村上春樹、江國香織、住野よる…翻訳児童文学育ちの私の好みは似てるな。一言で言うなれば、アッサリたんたん夢見心地。そういう意味ではソンウンピョンさん、ひいては訳者の矢島暁子さんの文章は好みの範疇なんだけど。ちょっと夢見心地が足りないのかな。なんだろうな。
普段あんまり娯楽として文章を読まない人にとってすごくクッキリ簡潔で読みやすいと思う。(失礼)
まぁそろそろ文体への感想はいいや。(長い)さてここからは内容と私の感受性について…この先ネタバレを含むので知りたくない人はここまでで。
脳の扁桃体(扁桃とは漢字でアーモンドと読む)が生まれつき小さい主人公は幼い頃から笑ったことがなく、病院を巡りめぐってアレキシサイミア(失感情症)と診断される。知能やその他の発達項目から、アスペルガーでも自閉症でもなかった、と書かれている。
感動感動と帯に書いてあったから覚悟して読んだらアッサリしてた。
それは単に私が主人公に同化しちゃってアレキシサイミアを擬似的に発動してしまったせいなのか??
そもそも私は主人公の男の子の感じ方になんら違和感がなかったから、最後なんで急に感情を持ったのか、自分からスッと主人公が離れていったような、最後の最後で道に迷ったような読後感でした。泣けなかったなぁ…残念。
この本を送ってくれた友達と感想を共有したところ、その子はめっちゃ泣けたらしく…やはり私がおかしいのか?「じゃあどんな時に泣くの?想像できない。」と自己分析チャンス!なナイスな質問が。
うーんどうだろう。今までの感覚だと、本を読んで泣くのは主人公に感情移入して、というのが多いな。
感情が外からどわーっと流入してくる。で、気がついたら泣いてる。
私が泣くパターンは悔しいが一番、やりきれないが二番。よかったーという安心の涙ではないから、ハッピーエンドではあまり泣けないな。
映画館とかだと周りの人が泣いていると受信して泣く、というのはある。その場合なんで泣いているのかは自分ではよくわからない。
最近わりと泣いたのは、pixivの「私の息子が異世界転生したっぽい」という話。きっかけは「異世界は、無いんです」というセリフだな。これはなんでかな。ここでぐわーっと泣けた。
(4話完結なのでサクッと読めてオススメです。)
▪️私の息子が異世界転生したっぽい
https://www.pixiv.net/user/62885296/series/103345
私のアイデンティティは、たぶん本来の器質的な父親由来の不感症な部分があり、そこへ環境要素として後天的学習としての母由来の共感がある。
母とは依存同化してきたから、そこは不可分で。父は物心ついた頃からずっと単身赴任で週末にしか帰ってこなかったから幼少〜成長期はほぼ母はワンオペ孤育てで。
ある種の愛着障害的な何かがあったのかもしれない。過干渉な母と無関心な父の子は…みたいな話も聞いた。でもまぁ母は常に子どもを全肯定の呼吸だったし家は快適だったし全然イヤじゃなかったんだけどね。
まぁともあれ、アーモンドを読んで、最後はとても置いてけぼりになっちゃったんだけど、途中の不良少年が主人公と仲良くなろうと不器用に近づく描写や、主人公になんとか感情を与えようと蝶を使って迫る場面とか、恋に落ちる瞬間とか、鮮やかな印象的な表現がたくさんあって楽しめた。
特に蝶の場面は、結局自分が一番傷ついてしまう感受性豊かな不良少年のいじらしさに萌えた。彼は本当に魅力的なヒロインだよなぁ。(意図的な誤用)
あと作品全編を通して、感情について主人公に説明する噛み砕かれた分析はとても勉強になった。
特になるほどなぁと思った表現。
親しくなるというのはどういうことか、と尋ねる主人公に、作中人物が説明する冒頭でも引用したこの言葉。
「例えば、こうやって君と私が向かい合って座って、しゃべってるみたいなこと。一緒に何か食べたり、考えを共有すること。金のやり取りなしにお互いのために時間を使うこと。そういうのを親しいって言うんだ」
実にわかりやすかった。大人になってから親しい友人ができにくい、というのもこれでなかなかよくわかった。情報化社会で、時間そのものや人間関係自体が金銭的な価値を帯びだすと、ますます混迷を極める。コレからの時代は、損得抜きに、というのがますます難しくなるだろうな。親しい人か……。
人間関係と言えば、私の好きなブリーチという漫画でも、「心は人と人との間にある」、という描写があって、ずっとすごくそうだなぁと思っている。
観察者があって、私が生まれる、というシュレーディンガーの猫に近い心の存在。心というのはなかなかに自己完結しないものだなぁと最近では思う。
▪️ブリーチ名言まとめ・「志波海燕」参照
https://d-manga.net/BLEACH-Maxim
#男性的子育てと女性的子育ての違いについてのツイートが燃えていたので私も感想を書いてみた
https://twitter.com/kirakiramamama/status/1358185030145646592?s=21
#今日のお歌…友人に教えてもらった外国語の歌「イ・ラン 対話 (대화) 」まぁとにかくタイトルの「対話」が今の私の人生のテーマそのもの。そしてハンバートハンバートのおなじ話に通じる掛け合い形式もまた私のツボにズッキュンラブでした。韓国語というのもアーモンドに通じる。総じて今縁がある一曲だなぁと思います。
https://youtu.be/tPePGAKm8zo