モラハラとの2年半
私の付き合い方には割と問題がある。
関係を持ってから、関係に名前をつけがちである。
そもそも始まりは大学生だった。
私は球場でバイトをしていた。
おのののかを想像してほしい、大体合ってる。
彼はバイト先の先輩で、売り子の管理をしていた。
夜の仕事はしたことがないけど、キャバクラのマネージャー的存在をイメージしてもらえたら良いかと思う。
自分もバイトなのに管理側だからか、威圧的で、自信満々で、上から目線なタイプだった。
私は全然無理だったけど、なぜか2年半、彼と交際することになる。
年末、バイト先で忘年会があって、その帰り道、彼にタクシーへ押し込まれた。
送るよと言いながら手を繋いでくるのは、本気で意味がわからなかったし、普段の威圧的な態度もあってやや恐怖を感じた。
イケメンで無ければセクハラで訴えるところだ。
そして、まだ20歳の私は純粋で自己主張が出来る女だった。
実家なんでここで降ろしてください。
そう言って、最寄りの駅で降ろしてもらった。
彼は意外そうな顔をして、またね。と手を振った。
それからバイトの飲み会の帰りは一緒に帰ることが増えた。悪い気はしなかったけど、別にテンションは上がらない。私と一緒に帰りたがってるお兄さん、その程度だった。
初めて泊まった日の翌日、朝の新宿を歩きながら、彼に付き合って欲しいと言われた。
それは違う気がする、と思って、
保留でお願いしますと返した。
またしばらくよくわからない期間が続いた後、
ちょっと情がわいて、彼に尋ねる。
あの時の話はまだ有効ですか?
そこから2年半だ。
彼は付き合いだしてすぐ、営業として就職した。
本業だった芸能活動も完全に辞めたようだった。
学生だった私は比較的時間が合わせやすく、彼と一緒にいる時間が増えた。
2人での旅行、大人なバーでのデート、何でもない日の高層階のレストラン、ハイブランドのプレゼント、全てが初めてだった。
社会人の恋人がいる自分が好きだった。
私は彼の会社で雇用契約のないアルバイトをしたし、彼の取引先の飲み会にも連れていかれた。
家族の集まりにも参加するようになり、私の髪の毛は彼の義兄の美容院で染められる。
若さなのか、今はわからないけど、私は彼にどっぷりだった。彼は余裕がある調子だったし、いつでも主導権は私にはなかった。
朝帰りを責めると、飲み過ぎただけなのに何を疑うんだと怒られたし、私の行動は縛られていた、気軽に男子がいるゼミの飲み会に顔を出せる雰囲気ではなかった。
多分ややモラハラだった。
俺を裏切ったら、どうなるかわかるよな、絶対許さない。
そんなことも言われていた、
何にもわからない私にはその言葉は絶対だった。
別れようと思ったのは、結婚式場を予約した後だった。正式なプロポーズも結納も顔合わせも無いので、婚約破棄とは違うだろう。
ただ、彼はしきりに結婚したいと言い、私も式場見学を楽しんでいたので、そのまま予約をした。
まだ私は23歳になったばかりだった。
最初に違和感を覚えたのは式場の手付金を払うだった。やりとりは覚えてないけど、私のカードから払って後で折半することにした。
そこから、彼はお金がないんじゃないかな、そんなことを思うようになった。私も就職してお給料をもらうようになって、銀行の総合職でも新卒の手取りはそんなに高くないことに気づいた。
じゃあ中小企業の彼は大丈夫なのだろうか。
そう言えば彼はクレジットカードを持っていない、基本的に現金主義だ。
そう気がついてから、色々今までの不自然さに合点がいった。
シャネルのプレゼントは大丈夫だったのか、私とのデート代はどこから出ていたのだろうか、彼のその計画性のなさや不透明さが怖くなった。
彼は虚勢を張っていたのかもしれない、普段の威圧的な態度やモラハラも自信がなかったのかもしれない。
2年半の間で溜まったもやもやは一気に溢れて、ああ、これはもうダメだな、と思った。
冬に差し掛かった頃、私は別れを切り出した。
距離を置きたいという曖昧な言葉で。
ハッキリと伝えたら、何をされるかわからない。
会社まで押しかけられたらたまらない。
ちょうどその時、私の心は上司に向いていたので、彼とはスムーズに終わりたかった。
彼は何度も粘って、それこそ脅しみたいな言葉を言ってみたり、俺がいないとお前はダメだと言ってみたかと思えば、俺にはお前が必要だよと情に訴えられたりもした。
距離を置いてしばらくして、
2人でパンケーキ屋さんに行った、
私は早く帰りたいとしか思わなかったけど、
彼はそれを許さない。
今までは必ず向こうが支払っていたお会計も別々だった。多分、冷たくして気を引きたかったんだろう。
その後も別れる別れないと話し合いを重ねて、
ついに向こうが折れたのはもう夏が迫っている頃だった。
私は何か大事なことを見失ったのかもしれない、もうすぐ24歳になる頃、意思を持った私は消えていた。
20歳の時の自分はもはや思い出せない。
彼と別れた後、私はイケメンばかりを好むようになったし、自分が受け入れられるか、相手の機嫌を損ねないか、そんなことばかり考えて人と付き合うようになった。彼のようにお金を使ってくれて、見た目が良くて、でもモラハラしない人がいいな、と、理想はかなり高くなった。
(婚活ではついぞ出会わなかった)
彼と付き合えたのは、私の見た目がいいからだろう、
そんな風に思ってた時期もあったけれども、
最近彼が結婚した女性は、正直見た目だけで言えばイマイチだったので、つまり私もそういうことだったのだと思う。
大変お世話にはなったけど、もう一度人生をやり直せるなら、私は彼を選ばない。
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