イタリアのプロジェクトベースコミュニティ
イタリアのデザイン学者、エツィオ・マンジーニが著書(※)の中で紹介しているミラノのコラボラティブ・シティ。
そのうちのNoLoとVia Cenniを実際に訪問したので、レポートします。
※「Design, When everybody designs」と「Livable Proximity」
プロジェクトベースコミュニティとは
エツィオ・マンジーニはこれまでソーシャルイノベーションのためのデザイン(Design for social innovation)という分野で研究を進めてきましたが、これが昨今ではコラボラティブ・シティのためのデザイン(Design for collaborative cities)に形を変えてきています。
確かに「Design, When everybody designs」ではソーシャルイノベーションの文脈が強かったのに対し、「Livable Proximity」ではシティという言葉が多用されていました。
そのようなソーシャルイノベーションやコラボラティブ・シティの例として挙げられているのが、NoLoとVia cenniです。どちらもイタリア ミラノの事例です。これらの取り組みは、まちづくりは地域に根ざした自治体や団体の大きな力がないと変えられないと考えられていたところから一変し、まちの通りで朝ごはんを食べるようなカジュアルな取り組みからも成り立つことを教えてくれます。つまり、そのようなカジュアルな取り組み=プロジェクトから始まるコミュニティが存在しているのです。
NoLo地区 多文化・多民族ネイバーフッド
NoLoはNorth of Loretoの略称で、Loretoはミラノのメジャーな広場の一つ、地区の名前です。
この辺りの地区は、低価格の住居を求める人が多く住み、移民の多い地区でした。2000年ごろにはイタリア人と移民の交流の場所になりつつも、セキュリティリスクの高いエリアになっていました。
それまではNoLoという名前もついていませんでしたが、2012年にこの地域でアメリカ ニューヨークのSOHOやDumboのようなブランドが作れないかと冗談で考えたのが「NoLo」という名前でした。この辺りから住民による活動が始まったようです。
活動の一つに、「Neighborhood Breakfast」があります。これは、地域の通りで椅子や机を並べて住民同士で朝ごはんを食べるコミュニティイベント。
他にも「Radio Nolo」と呼ばれるラジオ、「SanNolo」と呼ばれるのど自慢大会などのイベントがあります。
これらの活動は、プロジェクトベースで住民自身が行っているそうです。NoLo地区を率いるリーダーなどはおらず、個々のプロジェクトが存在するのだそう。ただ、名前をつけたりFacebookグループを作ったメンバーはいるそう。
このFacebookグループはNoLo地区に関わる人たちが参加できるもので、自由に参加者がポストしています。プロジェクト立ち上げのポストよりも、不用品のバザー的なものやパスポート写真がどこで撮れるかなど日常の疑問が多いようです。
このようなFacebookなどのSNSをコラボラティブな手段として使う一つの例となり得ます。ただし、移民が多い地区のため、すべての人がイタリア語がわかるわけではなく言語的ハードルのある人がFacebookグループに参加できない問題もあるようです。
Via Cenni ソーシャルハウジングとWeMiプロジェクト
Via Cenniは、ソーシャルハウジングの例として挙げられています。
日常生活に関連するすべての活動を行うためのスペースやサービスを隣人と共有できるような共同住宅です。
一見マンションが立ち並んでいるように見えますが、入ってみると中が抜けていて1階はコミュニティスペースになっています。(お店が一つ一つ並んでいるような感じ)建物の2階部分は、回遊できるように繋がっていました。
1階のスペースの使い方は、居住者たちが計画し、ルールの定義をしていったそう。このスペース作りの過程で、入居者同士がお互いを知り合いながら、内容を決めていったとか。
その中の取り組みの一つにWeMiスペースがありました。WeMiは、Welfare Milanoの略称で、ミラノ市が提供する福祉サービスの提供と、この地域の協会、協同組合、社会的企業の適格なネットワークを集約する最初の公共プラットフォームです。そのスペースがVia Cenniの中にありました。
WeMiは、子どもやお年寄り、移住者などケアを必要とする人に向けたサービスを提供しています。私がWeMiスペースに訪れたとき、アートスクールが開催されており、特別支援が必要な子どもたちが制作をしていました。
アポなしで突然お邪魔したにも関わらず、スペースの長が案内をしてくれました。(優しすぎる・・・)
Via Cenniの近くには、素敵なカルチャースペースがありました。中庭に机と椅子が並べられていて、学生が勉強したりしていました。週末はレストランで人が賑わっているそう。
ミラノも再開発が進んでいるエリアがあって、ここは六本木か?と錯覚したこともあったのですが、このカルチャースペースみたいにあるものを活かしていくのが素敵だなぁと思いました。建物のキャラクターが残っていくような循環の仕方。そのためには、まちに対するリスペクトが必要かもしれません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?