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怪怪怪怪物!を観た 〜最悪で爽快な青春スプラッタホラーの話〜
元気なミスミソウと言うべきか、地獄のブレックファストクラブというべきか……。
新宿の台湾巨匠傑作選2020で怪怪怪怪物!を観てきた。
監督は元web小説作家で、青春映画あの頃、君を追いかけたのギデンズ・コー。青春ものを撮る監督はホラーも上手いのは何でだろう。
舞台は台湾の高校。
真面目な優等生で不良集団から目をつけられてしまった主人公の男子高校生は、クラスの集金を盗んだ濡れ衣を着せられ、不良たちと老人ホーム慰問のボランティアに参加する羽目になる。
不良集団と仲間に組み込まれた主人公たちは、老人の家に強盗に入ったとき、そこに巣食っていた姉妹の食人怪物に遭遇し、妹の方の怪物を捕獲する。
人間ではないから何をしてもいい化け物を捕まえた、彼らの行動は次第にエスカレートしていくが、妹を探しに街へ降りてきた姉の怪物も次々と惨劇を起こしていく。
あらすじだけだと陰惨だし、校内暴力やいじめに大量殺戮とハードな場面はたくさんあるけれど、本編に観てみると意外と悲壮感がない。
特に売店のミキサーですいかジュースを作る場面と、雨の中怪物が襲ったスクールバスの中での惨劇がリンクする場面はすごくスタイリッシュだった。
笑ってはいけないけど笑える要素も多いし、疾走感のある早回しの映像と、学園ものらしいロックなBGMのせいで、薄汚い老人ホームを荒らしたり、怪物を虐待するシーンすら青春のひと幕のような爽快な場面に見える。
それは同時に、いじめられっ子の主人公がいじめられているときの苦痛は覚えていたはずなのに、いじめる側に回った途端、楽しいおふざけに変わってしまう瞬間を表しているようにも思えた。
実際、加害する側に回ったときの主人公は不良たちと同じ表情で笑っている。
この映画に真っ当な人間は大人も子どももほぼ出て来ない。
最低の女教師のいるクラスで誰にも頼れない主人公がいじめっ子の上下関係の中に友情を期待してしまったり、弱者がさらに弱者を叩くリアルさと頼りなさが全編通してある。
そして、良かったのが「弱い者を食い物にする人間の方がよっぽど怪物だ!」というわかりやすい善悪二元論では終わらないところ。
不良少年も家庭環境のせいでこうなったのかとうかがえる場面があったり、虐待される哀れな存在に見える怪物も同情できないほど人間を殺していたり、他の奴らとは違うと怪物に寄り添う主人公も結局保身のために怪物を身代わりにする。
安部公房がどこかで「善人も悪人もいない、良いときと悪いときがあるだけ」と書いていたのを思い出した。
思春期の主人公はそれを受け入れられないほど若かった。
そう考えると、この映画はやっぱり青春映画だと思う。
大人と子どもの狭間の怪物のような可塑性を持った少年たちと、その揺らぎで起こしたことにもしっかりとのしかかる責任が描かれていたのが、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の映画作品に重なった。
彼も青春映画とホラー映画の両側面が上手い監督だ。
ジュブナイル映画なら不良とひとに言えない苦悩を打ち開けて仲良くなったり、怪物と虐げられる者どうしの絆が生まれたのかもしれないけど、これはスプラッタホラーだ。
地獄に向けて一気に駆け抜ける、悲惨なのに爽快なエンディングは、最悪で最高だった。
DVDにもなっているので、イット・フォローズやサマー・オブ・84みたいな青春とホラーの融合が好きなひとはぜひ。
いじめっ子といじめられっ子のBLと人外姉妹百合って言ったら何人か騙されて観てくれないかな。