『The Freezing Beauty〜或いは白雪姫は四角い林檎の夢を見るか?』〜 「パンドラの果実🍎」初回感想〜
「それが可能であればどんな技術でも実現せずにはいられない、人間の本能みたいなものよ。」
(『攻殻機動隊Ghorst In The Shell 』)
有史以来、科学技術の進歩は沢山の「人類の夢」を叶えてきたわけですけど、それは「善いこと」ばかりではなかった、のもまた世に知れ渡っている通りで。それがtechnologyであれ、己の心ひとつであれ、いつだって人は自分達のコントロールできる範囲を見誤る、のがあらゆる〈物語〉の骨組みのひとつではありましょう。
このドラマもまた、その大きな構造の中に浮かび上がった「現在」を描くものになるのだな、というのが初回を観終わった直後の感想でした。
起きた事件は、事実だけを辿れば「よくある話」に分類されてしまうのでしょう。ただ起きた環境がわたし達“一般人”にはまだ馴染みが薄いものだった、というだけで、結局人を害する動機はいつも苦しむ人の中に生まれがち、というお話は、特段難しいものでもありません。
それが故に、観ていて興味は別の方向に向いてしまいました。最新のAI技術で動くロボットは、外部に害意を抱くことまでも学習してしまうのか?「全脳エミュレーション」と呼ばれる「人間の脳の構造をそのままコンピュータ上に再現する」試みは、果たして「人ひとりをそのままコピーすること」と同義なのか?
…技術として可能か、と言うよりも「その技術が実現してしまったら、わたし達はそれを受け止めきれるのか?」という方向へ。
事実、ドラマの中でもAIロボットの証拠隠滅への関与は公には認められません。理由は一言、「法整備が整っていない」です。そう、わたし達多くが暮らす“社会”の側に、今後、先端の科学技術がもたらすであろう沢山の事象を理解し、位置付ける準備が追いついていない、ってことです。
そして、それは簡単に言えば「その事象の善悪がはかれない」に繋がっていきます。
冒頭と、最後のシーン。コッヒー(こっちの方が短いんでそう呼ばせていただきます)が抱える〈秘密〉はこんなタイミングで視聴者に伝えられます。つまり、これがこのドラマの最大のテーマ、だと製作サイドは言ってます。
まさしく現代の科学が可能にした、してしまった「人の命そのものの在りよう」。
あの状況で、亜美さんは「生きて」います(法的にも社会的にも。でないとコッヒーの考えてる未来は成立しません)。それは、今の“わたし達”からするとずいぶんと突飛で、やっぱり“SFチック”としか思えないけれど、でも。
もし、もし、自分が突然、あの時のコッヒーの立場に置かれたとしたら。一番大切な人の命を「生かす」術を選べると聞かされたなら。それを否定することもまた、とてつもなく勇気が必要なことかもしれません。…わたし自身、ちょっと想像してみただけで、ものすごいプレッシャーに襲われましたハイ。
コッヒーの科学技術の発展進歩を『光』だと信じる気持ちに初対面から疑問を示し、『あんたは間違ってる』それは「執着」だと言い放った最上博士は、やっぱり〈その先〉を覗いちゃったのだろうな…そしてそこに『光』を見いだせず、引き返してきたのだろうな…。その気持ちもわかる気がします。少なくとも、今のわたし達はまだAI技術が人の能力を超えていく様も、「人の命」が「生きてある」とはどういうことなのかも理解できていないくせに『探究心は抑えられない』とかいう、かなり厄介な生き物である、ようですから。
でも、コッヒーだってわかっているんです。自分のしていることは世に広く受け入れられることではない。なによりも一人娘に真実を語れない、その時点で後ろめたい気持ちがあるのは本当なんだと思います(星来ちゃんがまだ幼いからだというのは言い訳にしかならないでしょう、特にコッヒーみたいな“誠実”な人には。)
そして、最上博士だってわかってるんです。そこに『闇』しか見えないのは、『光』を見出せないのは、わたし達自身の未熟故、なのかもしれないことを。
「絶望は愚か者の結論である」
(ベンジャミン・ディズレーリ)
絶滅危惧種のニホンウナギの完全養殖を密かに試し続ける最上博士は、もちろん愚か者なんかではない、はずなんです(にしても、最上博士、ウナギの成魚の個体識別ができるんですか?あ、識別票がついてる?あ、そういうものか!)
ここまで思って、改めて浮かんだのは、ドラマのメインビジュアルでした。
エデンの園の林檎を試せと誘惑したのは人の形をしていない、蛇という〈別の生き物〉でしたけど、ここでは違います。人工的に生み出されたとしか言えない、人間が人間の手で作り出した、正方形のそれを差し出すのは主人公…今、この現代に「科学技術でもって白雪姫を眠らせる決断をした」コッヒーその人です。
《自分は試した、あなたはどうする?》
凍れる白雪姫の代わりに、それを齧る勇気と知恵を、あなたは持てるのか?
なんかものすごぉく、ものすごぉく、考えなきゃいけない気が、してきました…。
さて第2話では、さらに踏み込んだ、人体への直接的な技術応用のお話が出てくるようです。
怪しげな団体も現れて事件の背景も一筋縄ではいかない様子。予告からはちょっと(イッツジー・イタオさんが仰ってた)「怪奇大作戦」っぽい色を感じて、ワクワクしています。
土曜夜10時。今から既に待ち遠しいです。
#パンドラの果実
#deanapple
#これが我らのコッヒーだ
#科学戦士サイエンサーのスピンオフ希望