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#01 おばあちゃんとの会遇
今の病院には屋外スペースがある。
唯一外の空気を吸える場所。
鳥の囀り、照り付ける日差し、強めの山風、
様々な刺激が、心地良い。
今日も僕は、此処に来る。
いつも決まった人がいる。
いつもと違う人がいる。
その中に、おばあちゃんがいた。
僕に話しかけてきた。
此処に居ると、よくある話だ。
「どうされたんですか?」
相手の状態確認から会話が始まる。
僕は正直これがあまり好きではない。
それでも集団生活、
相手も心地よく過ごせるよう
合わせて話し続けるようにしている。
今日だってそうだ。
おばあちゃんの話を聞いた。
脳卒中で歩行や発語、
更には思考も不便になり、
掛け算すら真面にできないと嘆いた。
「ひとと同じになりたくて」
「なんで私がって、悔しくて。」
「あの時死んじゃえば
こんな想いしなかったのに」
お孫さんが、家に居てくれるだけでいいからと、
今の状態のままでいい
という旨のコトバを贈ってくれてから
だいぶ楽になったという。
様々なことを想うだけで
涙が溢れそうになる、と
潤んだ眼差しで僕を見つめる。
「何を願うって、家に帰りたい。」
真っ直ぐ前を見つめて
何度もその願いを口にする。
後、僕にこう言った。
おねえちゃんは大丈夫だよ。
必ず治る。
必ず治るから、大丈夫よ。
顔見りゃあ分かるよ。
神様が治してくれる。
微笑み返すことしか、できなかった。
あまりにも驚いてしまって。
その根拠のないおばあちゃんの真実が
真っ直ぐに僕の中に落ちた。
去り際、杖を持ち、
祈っていますよ
と
何とも言えないお辞儀をして
ゆっくりと去って行った。
僕はまだ、動けずにいる。
空だけが、
晴れたり
曇ったりを
繰り返している。
少しだけ、汗ばむ。
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