誰も、まだしらない
電車で泣いた
前に座るおじさんがスマホを見ないタイプでも
ばれないようにこらえた。
「僕にとって大切な人」
その文字や想いが切なくて
いつもの通勤特快も
あまり苦ではなかったけど、
夜景越しに映った自分を意識すると
恥ずかしくてはやく座りたくなった。
あなたを想い、
想われたのはいつからだろうか。
たとえ そこに
大切な人と好きな人の境界があったとしても
どちらにせよ
大切な人だと
互いに思える関係は
いつまでも濃い霧が
まとわりついていた地上で
レースのように薄い雲泥が
微かによぎる熟れた甘い香りとともに
雲を見つめた
目元を優しくはたいて
真実を固く結んだ琴線を
そっと結び合わせたもの
その後どうなるのか
どうするのか
誰も、まだしらない