【中編小説】恋、友達から(001)
一章 城田萌絵と友達
高校三年生にもなって単純と思われるかもしれないけれど、それでも、毎日同じアーティストの曲を聴き続けるようなそんな何気ないことの積み重ねがあったからだと思う。
六月中旬となり、断続的なジメジメした日にうんざりする中、今日も雨。
「萌絵、彩、行くよ~」
声を掛けたつぐみちゃんとその横には葵ちゃん。二人は廊下際の席で、私は慌てて道具を抱える。二つ前の彩ちゃんが数歩歩いた私の横に並んで、明るく仕方なさそうに。
「ほら、またペンケース忘れてる」
と、ペンケースを私の教科書の上にそっと置いた。
またやってしまった。
「ありがと」
うん、と彩ちゃんは軽く頷く。
合流すると、つぐみちゃんが呆れたように微笑を浮かべた。
「二ヵ月経って確信したけど――萌絵って移動教室のとき、二回に一回は何か忘れるよね~」
うっ。
「そこが可愛いんですけどね」
葵ちゃんがしみじみと頷いている。そこを可愛いと言われてもなぁ……。
「治ってほしいんだけどね、これ……」
廊下に出ながら、溜め息混じりに言った。
小さい頃からずっと「どこか抜けている」と言われ続けている人生。ポンコツの自覚はあるんだけど、もはや軽く諦め気味でもある……。
「フォローしてくれる彩にちゃんと感謝しろよ~?」
つぐみちゃんがからかうような笑みをして、思わず困り顔。
「それは、うん、感謝してるよ」
「萌絵ちゃんは将来、彩ちゃんみたいな旦那さんをもらった方がいいですよね」
葵ちゃんがこちらを振り向き、冗談めかして言った。
「そうだね~。じゃないと私たちが不安になっちゃうし~」
乗っかるつぐみちゃん。
「もう、何言ってるんだか……」
「いやいや、マジな話だって~。ねえ、彩」
「まあ、確かにねぇ。フォロー上手じゃないと大変かもね」
「彩ちゃんまで」
少し不満げに言うと、彩ちゃんは私の肩に手を置いた。いつも通りのかっこいい微笑みで私を見る。
「ま、それまでは私がフォローするよ」
こんなことを簡単に言ってのけるのだから、毎回毎回心臓がもたない。
つぐみちゃんが呆れ顔を向ける。
「ほらまた萌絵を落とそうとするんだから~」
葵ちゃんはうんうんと頷き、彩ちゃんもまた呆れ顔。
「もう。またそんなこと言う」
「ていうか、いっそのこと授業は全部タブレットでやればいいのにね~。そしたら萌絵が忘れることもないだろうし」
「確かにそうですね」
葵ちゃんが言うのを聞きつつ、つぐみちゃんが私に怪しげな視線。
「まさかタブレットすら忘れるなんて……ないよね?」
「流石に……それはないよ?」
「そこは自信持って答えてほしかった!」
つぐみちゃんが楽しそうにツッコむ。私も自信を持って答えたかったけど、でも、正直なところ自信はない……。
「ちなみに萌絵ちゃんはノートのまま派? それともタブレット切り替え派?」
葵ちゃんの質問。
「ああ、その話よく聞くよねー。で、どっち?」
「私はノートの方がいいかな。タブレットは落としそうで怖い」
「「ああ~」」
「納得されるのもちょっと嫌なんだけどな」
思わずジト目になってしまう。
「確かにそれだと私もフォローできないな」
「彩ちゃんまで」
「あはは、ごめんごめん」
「もう」
彩ちゃんにからかわれる分にはむしろ前向きな感情を抱く辺り、私は大概どうかと思う。
「ドジっ子は美徳だからな」つぐみちゃんは得意げな顔をして言った。「萌絵はそれでいいし、そこを含めて好きなんだから、思う存分私たちを頼るんだぞ」
「ですねー」と葵ちゃん。
そして彩ちゃん。
「もちろん私も好きだよ」
「もう。調子いいんだから」
私は少し目を伏せて、でもそれは呆れたように見えたはずで。
「……でも、ありがとね」
そんな風に言っても、本当は、それが恋愛対象としての好きだったらいいのにと、私は思ってしまう。
ああ、なんで好きになっちゃったかな。
何が問題って、同じグループの女の子を好きになったことであり、そして何より――
彩ちゃんが女の子を恋愛対象と思ってくれる保証がないことだ。
なにせ彩ちゃん、小学生のときに男子と付き合っていたらしいのだから。
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