【中編小説】恋、友達から(016)
それにしても緊張する。この浮かれてしまう状況を利用してこっそり萌絵から情報を引き出そうと考えているせいでさっきからお祭りを微妙に楽しめていない。
「葵は何にする?」
「シンプルにリンゴ飴にします。つぐみちゃんは?」
「私はイチゴ。萌絵は?」
「キウイかな。彩ちゃんは?」
「じゃあブドウで」
それぞれ受け取って脇に捌ける。ちょうど空いてるところがあったからささっと移動した。
「うん、お祭り効果もあるだろうけど、美味いね」
「そこは言わなくていいんですよ」
と葵に文句を言われつつお互いのを食べ合ってるのを見ながら、どうやって萌絵と二人きりになれるように切り出すかタイミングを探ってしまう。
来る前に色々考えてみたけど、やっぱりトイレのタイミングを見計らって萌絵と二人きりになるのが妥当だ。それで、女子だけで来てる人は他にもいるし、「もしかしたら付き合ってるかもしれないね」ぐらいの言葉で反応を見てみようと考えている訳だけど……。
それでもし萌絵が女の子が大丈夫だった場合、もう一つ――付き合ってもいいと思える相手か確認してしまいたい。結果次第では……。
「ちょっと失礼」
つぐみがショルダーバッグからスマホを取り出した。
「お父さん?」と萌絵が尋ねて、つぐみはうんと頷いた。
「一度連絡しろって言われててさー」
「そうでした。私もしないと」
と葵も巾着袋からスマホを取り出そうとして、萌絵がリンゴ飴を預かった。
「みんな凄いなぁ。うちなんか『気を付けてね~』しか言われてないんだけど」
「私は念入りに注意するように言われたけど、連絡は『何かあったときに』って言われてる」
「じゃあ私と同じようなもんだね」
「そうだね」
萌絵は微笑して、葵の様子を見る。
「よし終わり」とつぐみがスマホを仕舞い、続いて葵も仕舞ってリンゴ飴を受け取った。ばくばくと食べてしまい、つぐみが葵を見る。
「さて、次は何食べる?」
「やっぱり綿あめですかね」
「いいと思う」
萌絵も賛成し、私も同意見と伝えて、綿あめを買いに歩き出す。
楽しそうに歩き出す三人に、私は少し反省する。せっかく来たんだからこの場を楽しむことも忘れないようにしないと。
あと、萌絵が迷子にならないように警戒しなければ。
いつもやらかしまくる萌絵だけど、今のところ大丈夫だった。綿あめの後にたこ焼きも食べたのだけど、そこまで含めて一度もやらかしていない。スリとかに警戒して、それが注意力に繋がっているのかもしれない。
かき氷の屋台の前に立った。
「何味にする?」
食べ過ぎると帯がきつくなるから綿あめとたこ焼きは一つ買ってみんなで食べるようにしたけど、かき氷はほとんど飲み物ってことで一人一つ買うことに。
そういえば、かき氷の味は全て同じで、色と香料で違いを出しているって聞いたことがある。まあ鼻をつまんで食べない限り別物になるんだから、それは違う味でいいんじゃないかなって思っちゃうんだけど……と思い、イチゴ味を選んだ。
脇に避ける。
「食べ比べしようよ」
そう言ったつぐみの視線の先にあるのは葵の抹茶味。これは明らかに他とは違う。
「仕方ない人ですね……」
葵は困り顔で容器を差し出した。
「つぐみ、私たちのも要るの?」
「そりゃそうだよ。じゃないと食べ比べにならないじゃん」と言って私の言わんとしたことに気付いてようで。「あ、同じ味だから~ってのはナシだよ? それは無粋ってやつだからね」
「それなら、交換しよっか」
ということで、みんな一口ずつ他の人のをつつくことに。つぐみと葵がいるから間接キス的な感覚はないけど、ていうか高三にもなってそんなことを気にするのはどうなんだと思うけど、それでも少しは気にしてしまうものだった。
頭キーンを避けるためにゆっくり食べて、その間、なんてことのない雑談を楽しんだ。
この調子でみんなで楽しく今日を楽しめたらいいな。
そんな風に思いつつ、「次は射的だ!」というつぐみの提案を受けて歩き出した後のことだった。
「あれ、萌絵は?」
萌絵がはぐれていた。
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