【願いの園】第二章 00
端的に言って、私は彼女が嫌いだった。
まず協調性がない。
決して空気を読まない訳じゃないけど、「これだけやったら十分でしょ?」と言わんばかりに最低限しかやらない。合唱祭とか体育祭とかみんなで頑張ろうってときにも冷めた顔して適当に流して。本気でやってる人だっているのに平気で踏みにじる態度が本当にムカつく。
とはいえ、これは仕方ないと理解してる。嫌がる人に無理させるのも違うし、向き不向きだってある。私の極めて個人的な思いで自由を奪うのは違うと思う。くそムカつくけど。
ただ、そんな言葉で片付けられないことがあって、これが最たる理由!
それは二年のとき、偶然耳にした。
廊下を歩いていた彼女は友達にこう言った。
「たまに『人は自由に選ぶことができるんだ』とか言う人いるけど、自由に決めたと思い込んでるだけでしょ。所詮、誰かに感化されて洗脳されたか、脳に操られてるだけ」
全身の血液が沸騰するようだった。
なにその酷い発言。
人権を無視してるにもほどがあるよね。
この件依頼、私が彼女に対して態度が悪くなったのは間違いない。それに、アンテナが立ったと言うか、彼女の発言がイチイチ耳に入るようになって、それで大体の人間性が理解できた。
彼女は、人間から自由を奪いたがっている。
ジャンル分けやカテゴライズは当たり前。
一人一人違うとか、みんな違ってみんないいとか、そういった考えがとことん嫌いみたいだった。ましてそれを『精神論』と切り伏せている。時代錯誤にも程がある。
ムカついた。
いいじゃんジャンル分けしなくても。誰一人として同じ人がいないことは間違いないんだから、そんなことする必要ないじゃん。
苛立ちが募った私は、三年の春、ついにそのことを伝えることにした。
すると彼女は、バカでも見るような冷めた目を向けてきた。
『いるよね、オンリーワンだとか、自分らしさが大事だとか、人はジャンル分けできないとか、そんなことを言い出すジャンルの人』
カチンと来た。
こんな侮辱は初めてだった。
でも私は何も反論できなかった。いや、もちろん言い返しはしたけど、それらは全て的を射てなくて、彼女を納得させることはできなくて、むしろ私の方が言い負かされてしまった。
『世界中に同じことを叫ぶ人がいるのに自由にその意見を選んだと言えるの? これは人間の普遍的な考え――つまり人間という種が持つパターンと考える方が自然じゃない? だいたい、同じ考えを持つ人が増えるからこそ意見に説得力が出て、幸せに繋がるんじゃないの?』
『例えば文字だって、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットといった分類があるよね。aやzにも個性があるんだから一括りにしないでとでも言うの? 私には同じことに思うけど』
これに関して「それとこれは違う!」と否定したら、
『何をどう感じるかなんて自由じゃないの? つまり私の考え方は〝間違ってる考え〟に分類してるんだね』
ムカつく。
マジでムカつく。
それ以来、私はずっとアイツをなんとか言い負かせないかと考えていた。たくさんのことを調べた。それでも絶対に大丈夫って意見には巡り合わなくて、苛立ちばかりが募っていった。
そんな夏休み明け、アイツは学校に来なくなった。
先生は「重い病気」とだけ説明したけど、あの性格だからどうせ誰かに酷い目に遭わされたに違いない。それで病んじゃって引きこもったんだろう。
ざまあみろ。
私はとても気分が良かった。人生で一番気分が良かったと本気で思ったぐらいに清々しかった。
教室が輝いて見える。
大袈裟にも、世界は美しいとさえ感じた。
アイツのせいで私は自分らしく生きれなかった。でも、これでようやく自由だ。
などと喜びに満ち溢れていた私は、その夜、母親からアイツの話を聞くことになった。〝重い病気〟の経緯を。
それから約二年が経過して。
まさかこんな思いをするとは予想だにしなかった。
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