彼某(かのがし)について
『ズッ友』のファン小説を書くにあたって「性別に関係ない三人称」がどうしても必要になってしまった。
というだけの理由で、彼、彼女に並ぶ三人称を作りました。
で、どうして『彼某(かのがし)』になったのか。その経緯を書いておこうと思い、これがあります。
あらかじめ断っておきますが、僕はリベラルではないしポリコレも興味ありません。本当にこれだけの理由ですので、ご理解をお願いします。
さて、本題に入ります。
そもそも『某』というのは「某○○さん」や「某所」など明確にしない場合などで使われる漢字です。性別を明確にしないという点で、これは流用できると思いました。
そして、これの熟語を探して、見つけたのが『彼某』でした。
『彼某』という言葉は「かれがし」や「かがし」と読んで、不定称の人代名詞だそうです。つまり「だれそれがこんなこと言ってたんだけど」の「だれそれ」の部分です。
僕は20年以上生きてきてこの言葉を一度も聞いたことがありませんでした。おそらくほとんどの人が知らない単語なんじゃないかと思います。
至って勝手に、そう決めつけました。
ほぼ誰も知らないなら、利用できる。
新たな三人称を完全に創作するのは、受け取り手の拒絶反応を考えるとやはりハードルが高い。存在するけど珍しい言葉を意図的に誤用するが一番いいと判断しました。
「役不足」「姑息」「失笑」など誤用される言葉は多いですし、今さら元の意味で話すことに抵抗感がある人も多いでしょう。
それに「敷居が高い」のように意味が追加された前例もあります。
ただ、読みをそのまま用いると、明確に元々の意味を阻害してしまいます。そこの配慮は必要ですし、あと人代名詞として音が悪い。
それで読み方は「かのがし」としました。
彼(かれ)、彼女(かのじょ)となれば、「かのがし」と読むのが妥当だと。
こうして彼某となりました。
以上、経緯です。
改めて申しますが、あくまで必要となったからそれっぽいものを作ったに過ぎなくて(正確には意図的な誤用ですが)。
この名曲を如何にして小説で表現するか、という思いだけです。
ここからは余談ですが。
実際問題として、僕がどれだけポリコレに興味ないと言っても受け手の判断にゆだねられますし、もちろん彼某を使用するにあたってこの言葉が一般化されることを想定してますから(じゃないとリアリティが出ない)、具体的に何を考えていたのかも記しておきます。
・まずは使い勝手。
字面は「彼女」と同じと考えればクリアできるはずです。ただ響きの点で少し引っかかるところもあるかもしれません。「がし」ってのが人称として聞き慣れてませんからね。慣れてしまえば、って話ですが。
例えば。
彼はゲームをしていた。
彼女はゲームをしていた。
彼某はゲームをしていた。
こう並べるとちょっと慣れてきませんか?
・次に、「男」「女」とそれに付随する単語はどうなるのか。
「某」は「何某」の「がし」ですから、こうしてみました。
男、女、御某(おがし) ・・・ 「お」から始まる三文字を統一
男子、女子、某子(ぼうし) ・・・ 音読みをそのまま使用
男性、女性、某性(ぼうせい) ・・・ 音読みをそのまま使用
少年、少女、少某(しょうぼ) ・・・ 音を切って使用
少某は無茶してますね。でも「しょうぼう」って「消防」を思い浮かべますし、こうするしか……。風呂や風土記と同じと思えばいけるか……?
それに「おがし」って音が悪いですよね。慣れの話にしたって第一印象で損してる感じがあります。とはいえ字面はセーフかな、と。
性別の欄を考えると、
「男・女・その他」
よりも
「男・女・御某」
とあった方がいいような気もするんですけど、どうなんですかね。
補集合と全体集合Uならどっちが好きかってことなんですけど。
まあ、「こういうもんだ!」と言った者勝ちです。はい。
普通って便利ですよ。これが普通なんだって言ってしまえば、
「某は『ぼう』って読むんだから少某は変? でもこう言うもんだし別に良くない?」
ってなりますから。
ただ画数の問題はありますね。
『某』だけで『某』と読むことも考えたんですけど、
某の子
って、某の子とか、某○○の意味で使う場合に迷惑になるので、やっぱり回避せざるを得なかったんですよね。
まあ使い物にならなくてもいいんですけども。僕だけが使って終わる単語になるだけですから。これで三度目ですが、ファン小説のために作らざるを得なかっただけなので。
もちろん使いたいと思う方がいらっしゃれば止めるつもりもありません。
ご自由に使ってやってください。
最後にもう一つ。
実は一人称も考えようとしたんですが、これがいいのが作れなかったんですよ。
一音だと、
例えば「私」を略して「わ」はどうかなと思ったんですが、これ昔使われていたらしくて、ましてや方言として現存してるみたいなんです。
いっそ昔のものを使いまわそうかと考えましたが、「吾」や「余」は文学的か偉そうな感じになるうえ、他も古さを感じて現代に馴染まない。他の音も一人称って感じがしない。
参りましたね。
二音以上も一人称っぽいやつはだいたい歴史の中で出尽くしてる感じだし、古さを感じたらやっぱり現代に馴染まない。厳しいです。
結局本編では一人称は「自分」にして、「自分」が一人称だと違和感がある文章は避けるようにして、なんとか書いたんです。『ズッ友』では一人称を「私」にしてるんですが――確かにこれは誰でも使えるんですが、この小説だと設定的に厳しいんですよね。
そんな感じで、余談でした。
ではでは。
最後まで読んでいただきありがとうございます