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【リスク特定】金融庁ガイドラインが求めるリスクベースアプローチを徹底解説【マネロン対応期限迫る!】
今回は、金融庁が公表する「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(金融庁ガイドライン)」が求める「リスクベースアプローチ」のうち、【リスク特定】について解説します。
金融機関には、金融庁ガイドラインについて、
■対応が求められる事項
これは、「ミニマム・スタンダード」として、2024年3月末までに完了させることが求められています。
さらに、
■対応が期待される事項
これは、「対応が求められる事項」の対応を完了させつつ、より高度な管理態勢の構築が求められています。
そこで、今回は、
「対応が求められる事項」のうちの【リスク特定】について、態勢構築のポイントを理解することができますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。
金融庁ガイドラインでは、「リスクベース・アプローチ」の取組みが欠かせないとしています。
「リスクベース・アプローチ」とは、
「自らが直面しているリスク(顧客の業務に関するリスクを含む。)を適時・適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講ずること」
つまり、
リスクが高い取引については厳格な措置を、リスクが低い取引については簡素な措置を実施することにより、リソースを効率的に配分し、全体的なリスクを低減するアプローチになります。
「リスクの特定」は、「リスクベース・アプローチの出発点」といえます。
1.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】
金融庁ガイドラインの「リスクの特定」においては、次の点が求められています。
国によるリスク評価の結果※等を勘案しながら、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、自らが直面するマネロン・テロ資金供与リスクを特定すること
※「国によるリスク評価の結果」が「犯罪収益移転危険度調査書」になり、令和4年版が2022年12月2日に公表されました。
さらに、その他の参照資料として、次の資料があります。
・マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)
・FATF が公表するリスクベース・アプローチに関するガイダンス
金融機関には、「犯罪収益移転危険度調査書」に記載される国の犯罪の傾向と、自組織の犯罪の傾向が、同じ傾向にあるのか、また違う傾向にあるのかについて、自らが提供している商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客の属性の4つの切り口からリスクを特定することが求められています。
■商品・サービス
犯罪収益移転危険度調査書では、預金取扱金融機関が取り扱う商品・ サービスのうち、
「預金口座、預金取引、為替取引、貸金庫、手形・小切手等は、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性がある。」
としています。
以上を踏まえて、
自ら提供している「〇×普通預金」、「××定期預金」、「△△ドル建普通預金」など、提供している商品・サービス1つ1つについて検証し、リスクを特定する必要があります。
リスクの特定においては、
◆取組の好事例(令和3年版犯罪収益移転危険度調査書)
留学や技能実習等の帰国を前提とするような事由で滞在している外国人は、帰国時に口座を不正に転売する可能性があること、現金を集中的に取り扱う業者は、取引において不正な資金が混入する可能性があること等、具体的なリスクを特定している事例
◆取組に遅れが認められる事例
自らが提供する一部の商品・サービスについて、リスクが存在することを認識しつつも、当該リスクが顕在化することはないと判断し、リスクの特定・評価、及び、リスクに応じた対応方針を検討していない。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
さらに、
令和4年版犯罪収益移転危険度調査書には、「商品・サービス」について、「 商品・サービスの危険度」に所管行政庁の新たなリスク認識が記載されています。
具体的には、「第5 商品・サービスの危険度」の「1 危険性の認められる主な商品・サービス」に、所管行政庁の新たなリスク認識が記載されています。
〇預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス
【所管行政庁が新たに把握した脅威・脆弱性等】(P. 69)
・収納代行のスキームで、第三者から代理受領権を取得した上で、当該第三者から自らが開設している銀行口座宛ての入金を受け、集めた資金を、海外に所在する別の事業者に対して、まとめて送金(いわゆるバルク送金)する事業者が存在することが確認された。銀行にとっては、資金移動業者と同様に、顧客宛てに入金をする者や、最終的に資金を受領する者の素性を把握することができないリスクが存在。
・暗号資産交換業者が銀行に開設している銀行口座を受け皿として、不正送金を行う事例が確認された(大手銀行の子会社に対するモニタリングの中で把握)。主体や手口は不明であるものの、被害者が自らの意思で振り込んでいるケースもあれば、被害者が暗号資産交換業者名義の口座名義と口座番号の情報を詐取され、被害者の意思に反して振込が行われているケースも存在。
【預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービスの悪用事例】(追加されたもの)(P. 73)
■内国為替取引
・暴力団員が、無許可の風俗営業により得た犯罪収益を、みかじめ料として知人名義の口座に振込入金させた。
・特殊詐欺により得られた犯罪収益を、不正に開設された活動実態のない会社名義の口座に振込入金させた。
・不法残留の外国人を労働者として派遣して稼働させた報酬を、知人名義の口座に振込入金させた。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
■取引形態
犯罪収益移転危険度調査書では、
「非対面取引、現金取引、外国との取引は、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性がある。」
としています。
以上を踏まえて、
自らの業務の特性とそれに伴うリスクを包括的かつ具体的に想定して、直面するリスクを特定する必要があります。
◆取組に遅れが認められる事例
非対面取引形式による商品・サービスを提供しているにもかかわらず、これらの商品・サービスに対するリスクの特定・評価を行っておらず、全ての商品・サービス等のリスクを包括的に評価していない。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
さらに、
令和4年版犯罪収益移転危険度調査書には、「取引形態」について、
「取引形態と危険度」に「マネー・ローンダリングに悪用された主な事例」等が新設されています。
具体的には、「第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度」の「1 取引形態と危険度」に、「令和3年中にマネー・ローンダリングに悪用された主な事例」等が新設されています。
【非対面取引】(P.31、P.32)
・他人になりすまして新型コロナウイルス感染症に関連した給付金詐欺により得た犯罪収益を銀行口座に振り込ませた上で、インターネットを通じた非対面取引により、別の他人名義の口座に送金した。
・詐欺により得た犯罪収益を、インターネットを通じた非対面取引により、暗号資産取引用口座に送金した上で、暗号資産を購入した。
・窃取した健康保険証を用いて他人になりすまし、住民票を取得して同保険証とともに使用し、銀行口座を開設した上で、インターネットを通じた非対面取引により融資を申込み、融資金を他人になりすまして開設した口座に振込入金させた。
・インターネット上に開設された新幹線ネット予約の会員サイトに接続し、不正に入手したクレジット情報を用いて非対面取引により新幹線チケットの購入を申込み、発券を受けた。
・窃盗により得た犯罪収益を、フリーマーケットアプリを利用して売却し、非対面取引により他人名義の口座に振込入金させた。
【現金取引】令和3年中、現金取引に係るマネー・ローンダリング事犯により得られた犯罪収益を剥奪した事例(P.34)
・偽造の在留カードを悪用して他人になりすまし、不正に入手した携帯電話機を質屋に売却して得られた売却代金の一部である現金に没収判決がなされた。
・ヤミ金融の返済金として他人名義の口座に預け入れされた現金が犯罪収益と認定され、捜査機関により押収した現金を含めて全額に追徴判決がなされた。
【外国との取引】令和3年中、外国との取引が悪用されたマネー・ローンダリング事犯(P.37、P.38)
・アメリカ、ヨーロッパ等において敢行した詐欺(ビジネスメール詐欺(BEC)等)による詐取金を我が国の銀行に開設した口座に送金させた上で、口座名義人である日本人が、偽造した請求書等を当該銀行の窓口で提示して、正当な取引による送金であるかのように装って当該詐取金を引き出した。
・違法な動画を外国の動画サイトに出品し、その売却代金として海外送金されてきた犯罪収益を、正当な取引による送金であるかのように装って入金を受けた。
・会社の正当な資金移動を装って、外国の銀行口座に不正に送金させた上で、当該詐取金で暗号資産を購入するなどした。
【疑わしい取引の届出】
令和元年から令和3年までの間の、外国送金に関する疑わしい取引の届出件数は 14 万 6,420 件で、中国、香港及びアメリカを送金先又は送金元とする取引の届出が約半数を占めている。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
■国・地域
犯罪収益移転危険度調査書では、
「イラン及び北朝鮮との取引は、マネー・ローンダリング等に悪用される危険度が特に高いと認められる。」
としています。
以上を踏まえて、
直接・間接の取引に係る国・地域を漏れがないよう包括的に洗い出し、その上で、実務に即して具体的なリスク項目を特定する必要があります。
◆取組に遅れが認められる事例
直接・間接の取引可能性のある「国・地域」を包括的に洗い出す、あるいは日本と国交のある国及び北朝鮮(196 か国)を洗い出していない。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
■顧客の属性
犯罪収益移転危険度調査書では、
「反社会的勢力(暴力団等)、国際テロリスト(イスラム過激派等)、非居住者、外国の重要な公的地位を有する者(外国 PEPs)、法人(実質的支配者が不透明な法人等)は、危険度が高いと認められる。」
としています。
以上を踏まえて、
自ら届出を行った疑わしい取引の分析を含め、自ら直面するマネロン・テロ資金供与リスクの特性を考慮する必要があります。
◆取組に遅れが認められる事例
業界団体から提供を受けたリスク評価書のひな形に基づき、犯罪収益移転危険度調査書記載の事案を列挙するにとどまり、自らが提出した疑わしい取引の届出の傾向と分析、警察から凍結要請を受けた口座の分析、金融犯罪の被害状況等の自らの規模・特性を踏まえたリスクの特定には至っていない。
自らの顧客が対象となった金融犯罪の傾向、疑わしい取引の届出等の分析に基づく、自らの個別具体的な特性を考慮したリスク評価を実施していない。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
さらに、
令和4年版犯罪収益移転危険度調査書には、「顧客の属性」について、
「顧客の属性と危険度」に「非営利団体のテロ資金供与への悪用」が新設されています。
具体的には、「第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度」の「3 顧客の属性と危険度」に、「非営利団体のテロ資金供与への悪用」が新設されています。
【NPOを所管する行政庁によるリスク評価結果等を記載】(P.56~P.58)
我が国の非営利団体がテロ資金供与に利用された事例はなく、また、利用されるリスクも総合的に低いと認められる。しかし、非営利団体によっては、テロの脅威にさらされている国・地域等で活動したり、海外パートナー等に送金を行ったりする団体もあることから、非営利団体がテロ資金供与等に利用されないようにリスクに応じたアウトリーチやモニタリングを行う必要がある。
また、「顧客の属性と危険度」に法人の制度上の脆弱性等のリスクが記載されています。
具体的には、「第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度」の「3 顧客の属性と危険度」に、「法人(実質的支配者が不透明な法人等)の制度上の脆弱性等のリスクが記載されています。
【悪用された法人の登記に着目して分析したところ、次のような法人も認められた】(P. 65)
・登記されている資本金の額が数万円から数十万円と極めて少額な資本金で設立されている法人
・所在地や役員の登記変更が頻繁である法人
・多数の事業目的が登記され、それぞれの目的同士の関連が低いといった不審点が認められる法人
・株式会社に比して合同会社が設立されてからより短期間のうちに悪用されている傾向にあり、中には設立から数ヶ月程度で悪用
【疑わしい取引の届出】(追加された届出理由)(P.65、P.66)
・法人の代表者が外国人でありながら、代表者の在留資格に就労制限があるもの
・同一の住所地に多数の法人を登記しており、事業実態も不明でペーパーカンパニー等が疑われるもの
・法人による取引にもかかわらず、合理的な理由なしに個人名義の口座を使用しているもの
・長期間不活動であった法人口座に突如多額の取引が発生し、給付金等の不正受給が疑われるもの
【危険度の評価】(追加された評価)(P.67)
・会社形態別にみると、株式会社は、設立手続等が厳格であり、一般的な信用が高く、株式の譲渡がしやすいという特性から、既存の株式会社を悪用される危険性がある。
・持分会社は、設立手続等が総じて簡易であって維持コストも安価であるという特質から、新たに持分会社を設立するなどして悪用される危険性がある。
これらも参考にしながら、リスクを特定する必要があります。
2.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】
金融庁ガイドラインの「リスクの特定」においては、次の点が求められています。
包括的かつ具体的な検証に当たっては、自らの営業地域の地理的特性や、事業環境・経営戦略のあり方等、自らの個別具体的な特性を考慮すること
犯罪収益移転危険度調査書では、日本の環境として、
・地理的環境
北東アジア地域にある島国
・社会的環境
人口減少、高齢化の進展、外国人入国者数等
・経済的環境
世界第3位の経済規模、世界有数の国際金融センター
以上の特徴を挙げています。
以上を踏まえて、
自らの営業地域が、貿易が盛んな地域に所在するといった場合や、反社会的勢力による活発な活動が認められる場合、反社会的勢力の本拠が所在している場合に、当該地域の独自の特性を考慮する必要があります。
3.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】
金融庁ガイドラインの「リスクの特定」においては、次の点が求められています。
取引に係る国・地域について検証を行うに当たっては、FATF や内外の当局等から指摘を受けている国・地域も含め包括的に、直接・間接の取引可能性を検証し、リスクを把握すること
犯罪収益移転危険度調査書では、
「イラン及び北朝鮮との取引は、その危険度が特に高いと認められる。
マネー・ローンダリング等への対策に重大な欠陥を有し、かつ、それに対処するためのアクションプランを策定した国・地域について、当該国・地域との取引にあたっては、FATF が指摘する欠陥が是正されるまでの間になされるものは、危険性があると認められる。」
としています。
【FATF 声明で加盟国等に対して対抗措置等が要請された国・地域】として、例えば、アルバニア、バルバドス等(令和4年版犯罪収益移転危険度調査書P.43)があります。
以上を踏まえて、
顧客が海外での業務に関係する業務を行っている場合や海外で業務を行っている場合については、その顧客の業務に関係する国・地域のマネロン・テロ資金供与リスクを勘案する必要があります。
4.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】
金融庁ガイドラインの「リスクの特定」においては、次の点が求められています。
新たな商品・サービスを取り扱う場合や、新たな技術を活用して行う取引その他の新たな態様による取引を行う場合には、当該商品・サービス等の提供前に、当該商品・サービスのリスクの検証、及びその提供にる提携先、連携先、委託先、買収先等のリスク管理態勢の有効性も含めマネロン・テロ資金供与リスクを検証すること
犯罪収益移転危険度調査書では、
「収納代行のスキームで、第三者から代理受領権を取得した上で、当該第三者から自らが開設している銀行口座宛ての入金を受け、集めた資金を、海外に所在する別の事業者に対して、まとめて送金する事業者が存在することが確認された。顧客宛てに入金をする者や、最終的に資金を受領する者の素性を把握することができないリスクが存在する。」
としています。
以上を踏まえて、
新たな商品・サービスの取扱いが発生する場合、事前にマネロン・テロ資金供与リスクを分析・検証する必要があります。
また、提供後に、事前に分析・検証したものと異なるリスクを検知した場合には、リスクの見直しを行い、見直し後のリスクを低減させるための措置を講ずる必要があります。
5.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】
金融庁ガイドラインの「リスクの特定」においては、次の点が求められています。
マネロン・テロ資金供与リスクについて、経営陣が、主導性を発揮して関係する全ての部門の連携・協働を確保した上でリスクの包括的かつ具体的な検証を行うこと
「経営陣の主導性」については、次の具体的な対応が考えられます。
・組織全体で連携・協働してマネロン・テロ資金供与リスクを特定するための枠組みの確保
・経営レベルでの各部門の利害調整
・円滑かつ実効的にマネロン・テロ資金供与リスクの特定を実施するための指導・支援
・それらを可能とする経営資源の配分に関する機関決定を主導的に実施
◆経営陣の主導的な関与がなされていない事例
・経営陣は、担当部署からマネロン等対策に関する取組状況の報告を受けるにとどまり、ギャップ分析結果に基づき、ギャップを埋めるための行動計画の策定を指示していないなど、マネロン等リスク管理態勢の整備に向けた主導的な関与は十分なものとなっていない。
・経営陣は、マネロン等対策が経営の重要課題の一つであるとの認識が不足しており、また、四半期毎にマネロン等対策の行動計画の進捗状況が報告されているものの、計画どおり実施できなかった施策について、担当部署に対し、その要因分析を指示しておらず、進捗管理が十分に行われていない。
・経営陣は、関係法令やガイドラインのみならず、自らの事務手続について熟知していない者をマネロン等対策担当部署の役席に任命する、又は十分な人員数を配置しないなど、経営として最も対応が期待される人的資源配分を適切に行っていない。
以上も考慮する必要があります。
今回のまとめ
金融機関には、金融庁ガイドラインの
■対応が求められる事項
これは、「ミニマム・スタンダード」として、2024年3月末までに完了させることが求められています。
さらに、
■対応が期待される事項
これは、「対応が求められる事項」の対応を完了させつつ、より高度な管理態勢の構築が求められています。
今回は、金融庁が公表する「金融庁ガイドライン」が求める「リスクベースアプローチ」のうち、【リスク特定】について、態勢構築のポイントを解説しました。
弊所では、犯罪収益移転防止法やアンチ・マネー・ローンダリングについて、講演・研修活動を通じて、態勢の構築をサポートしています。
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福田秀喜(行政書士福田法務事務所)
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