匿名の内部通報を希望する社員への対応方法
匿名の内部通報を受け付けると、次の問題が発生するかもしれません。
●虚偽の通報
●他人を誹謗中傷する通報
●不正の目的の通報
このような悪意を持った従業員がいないとも限らないことから、企業側は「匿名での内部通報は認めたくない」と考えてしまいます。
一方で、内部通報したい(すべき)と考えている従業員の中には、次のことを心配する者もいます。
●自分が通報したことを特定されたり、推測されたくない…
●自分が通報したことで、解雇や降格といった不利益な取扱いを受けてしまうかもしれない…
したがって、「匿名であれば内部通報したい」と考える従業員もいます。
そこで、今回は、企業側と従業員側の相反する考えを解消するため
●内部通報制度の設計例
●内部通報制度を設計する際の留意点
について解説しますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。
■「指針の解説」からの要請
「指針の解説」(※)においては、「指針を遵守するための考え方や具体例」として、次の考えが示されています。
内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要である。匿名の公益通報者との連絡をとる方法として、例えば、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム等)を導入する等の方法が考えられる。
(※)指針の解説
公益通報者保護法に基づく指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)の解説
「匿名の内部公益通報も受け付けることが必要である。」旨の考えのとおり、匿名の内部通報も受け付ける体制とすることは、「指針の解説」から要請されたマストの対応になります。
■内部通報制度の設計例
1.内部通報は、「実名(顕名)」を基本、「匿名」でもできる。
「内部通報受付窓口」への通報は、自己の氏名と所属を明らかにすることを基本とし、ただし、匿名を希望する者は、匿名でも通報することができる旨を、自社の「内部通報制度規程」に明記する。
2.個人が特定できないフリーメールを利用して内部通報する。
「内部通報受付窓口」への通報は、個人が特定できないフリーメール( Gmail、Yahooメール、Outlookメール等)を利用し、匿名でも通報することができる旨を、自社の「内部通報制度規程」に明記する。
3.匿名での通報を可能とする仕組みを導入する。
【仕組1】
弁護士等に委託し設置した「外部通報受付窓口」への通報は、自己の氏名と所属を明らかにすることを基本とするものの、「外部通報受付窓口」と「内部通報受付窓口」との間においては、通報者の氏名や所属等の「通報者を特定させる事項※」は、通報者の承諾がない限り共有しないとする仕組み
(※)通報者を特定させる事項
公益通報をした人物が誰であるか「認識」することができる事項をいう。
公益通報者の氏名、社員番号等のように当該人物に固有の事項を伝達される場合が典型例であるが、性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、該当する。「認識」とは刑罰法規の明確性の観点から、公益通報者を排他的に認識できることを指す。
【仕組2】
匿名の通報者と事業者との間の連絡を仲介する事業者が提供するチャット等の専用システムを導入し、当該事業者と「内部通報受付窓口」との間においては、通報者の氏名や社員番号等の「通報者を特定させる事項」は、通報者の承諾がない限り共有しないとする仕組み
【制度設計上の留意点】
1.内部通報制度の目的は、法令違反行為等の経営上のリスク情報を早期に把握し、是正することにより、コンプライアンス経営を推進することにある。
したがって、内部通報者が誰なのかに固執することで、リスク情報を早期に把握するチャンスを逃してしまうことのないように、匿名、実名(顕名)を問わず幅広に通報を受け付ける体制とする。
2.問題の早期発見や解決に協力した従業員に対しては、組織の長等から感謝を伝えるなどして、組織への貢献を正当に評価する体制とする。
3.「虚偽の通報、他人を誹謗中傷する目的の通報その他の不正の目的の通報を行ってはならない。」旨を自社の「内部通報制度規程」に明記して、悪意を持った従業員による通報を抑止・牽制する。
以上を踏まえ、自社の「内部通報制度」の構築に向けた取組みを加速していきましょう。
福田秀喜(行政書士福田法務事務所)
【追伸】
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【追伸2】
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