見出し画像

【継続的顧客管理(CDD)】金融庁ガイドラインが求めるリスクベースアプローチを徹底解説

今回は、「金融庁ガイドライン」が求める「リスクベースアプローチ」のうち、【継続的顧客管理(CDD)】について解説します。

今回の記事を読むと

■マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン
(金融庁ガイドライン)

■マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問
(FAQ)

■マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022 年3月)

から【継続的顧客管理(CDD)】について、態勢構築のポイントを理解することができますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

「顧客管理(CDD:カスタマー・デュー・ディリジェンス)」とは、

リスク低減措置のうち、特に個々の顧客に着目し、自らが特定・評価したリスクを前提として、個々の顧客の情報や当該顧客が行う取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断・実施する一連の流れ

をいいます。

顧客管理(CDD)においては、【取引開始時】に、一度顧客リスク評価を実施すればよいわけではなく、【取引開始後】においても「定期的に」、また「必要応じて随時に」継続的に実施することが求められています。

この取組みを「継続的顧客管理」と呼んでいます。

1.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】⑦

金融庁ガイドラインでは、次の点が求められています。

マネロン・テロ資金供与リスクが高いと判断した顧客については、以下を含むリスクに応じた厳格な顧客管理(EDD)を実施すること

◆リスクに応じた厳格な顧客管理(EDD)を実施する際の具体例

具体例は、次のとおりです。

【取引開始時】
・顧客リスク評価を実施
リスクに応じて追加的に行うヒアリング項目をあらかじめ定めておき、厳格な取引時確認の手続を文書化し周知徹底しておく。
(例)合理的な説明がなく居住地と勤務先のいずれからも遠方の支店に口座開設を要請された場合
 
【取引開始後】
・顧客リスク評価に応じた頻度及び顧客のリスクが高まったと想定される具体的な事象が発生した際にリスク評価を見直す。
(例)合理的な説明なく、今までの総合振込、給与振込先とは異なる複数の先に送金の申込みがある場合
・リスクに応じた取引モニタリングの敷居値を設定・変更する。

 さらに、次の点が求められています。

イ. 資産・収入の状況、取引の目的、職業・地位、資金源等について、リスクに応じ追加的な情報を入手すること

ロ. 当該顧客との取引の実施等につき、上級管理職の承認を得ること


◆「上級管理職」の具体例

具体例は、次のとおりです。

・マネロン・テロ資金供与対策に従事する部門の長等が含まれ、各金融機関等の規模や組織構造等に応じて、個別具体的に判断する必要がある。
 (例)リスク管理部長、コンプライアンス部長、各支店の支店長 等

※関係法令やガイドライン、自らの事務手続について熟知する者を配置することが必要

さらに、次の点が求められています。

ハ. リスクに応じて、当該顧客が行う取引に係る敷居値の厳格化等の取引モニタリングの強化や、定期的な顧客情報の調査頻度の増加等を図ること

◆具体的な対応例

 具体例は、次のとおりです。

 【マネロン・テロ資金供与リスクに対する方針・手続・計画等を策定】
 当該方針・手続・計画等に従い、リスクに応じたリスク低減措置を実施
 ・個々の顧客に対する顧客リスク評価(例)中リスク先⇒高リスク先
     ↓
 ・取引モニタリングの強化 (例)2年毎の確認⇒1年毎の確認
 ・顧客情報の調査頻度の増加(例)2年毎の確認⇒1年毎の確認

さらに、次の点が求められています。

ニ. 当該顧客と属性等が類似する他の顧客につき、顧客リスク評価の厳格化等が必要でないか検討すること

◆具体的な対応例

 具体例は、次のとおりです。

以下の手続について、実施権限者、実施プロセス、実施部署等を文書化
・高リスク先と判断された顧客
 商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等について内容を確認
     ↓
・他の顧客について、高リスク先と判断された顧客と類似または共通する項目等がないかを確認
     ↓
・顧客リスク評価を見直す必要性について検討

2.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】⑧

金融庁ガイドラインでは、次の点が求められています。

顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではないなどのリスクが高い取引等について、取引開始前又は多額の取引等に際し、営業実態や所在地等を把握するなど追加的な措置を講ずること

◆「合理的ではない」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

以下のリスクが高い取引等の事例を文書化し、周知徹底
・事業所と金融機関等との取引場所が離れている遠隔地取引の場合
・送金依頼人が輸入者や商取引の支払人とは別の第三者であって、第三者が送金することに合理的な理由が認められない場合
・取引の内容が顧客から申告を受けている営業内容等の情報と整合しない場合

◆「追加的な措置」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

以下の追加的な措置の事例を文書化し、周知徹底
・現地確認・実在性チェック(顧客への訪問、実地調査)
・商業登記情報の精査(「現在事項全部証明書」「履歴事項全部証明書」「閉鎖事項全部証明書」の確認)
・決算書類の精査(役員や実質的支配者の反社チェック、財務分析)
・不動産登記情報の精査(「差押」「仮差押」「競売開始決定」「所有権移転請求仮登記」の登記の有無等)
・風評チェック
・取引の経緯のチェック(取引を行う理由が明確か、紹介者に問題ないか等)

3.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】⑨

 金融庁ガイドラインでは、次の点が求められています。

マネロン・テロ資金供与リスクが低いと判断した顧客については、当該リスクの特性を踏まえながら、当該顧客が行う取引のモニタリングに係る敷居値を上げたり、顧客情報の調査範囲・手法・更新頻度等を異にしたりするなどのリスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)を行うなど、円滑な取引の実行に配慮すること

◆「低リスク先」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

【なりすましや不正利用等のリスクが低いことが過去のデータを踏まえ合理的に説明できる顧客や口座
・生活に不可欠な口座(給与振込口座、住宅ローンの返済口座、公共料金等の振替口座その他営業に供していない口座)
・1年以上不稼働の口座
・国や地方公共団体、国や地方公共団体が主体的に管理する公共性を有する団体(法律上の根拠に基づき設立・資金の運用が実施されている団体等)

◆「簡素な顧客管理(SDD)」の具体例

具体例は、次のとおりです。

・DM 等を顧客に送付して顧客情報を更新するなどの積極的な対応を留保する。
・取引モニタリング等によって、マネロン・テロ資金供与リスクが低く維持されていることを確認する。

4.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】⑩

金融庁ガイドラインでは、次の点が求められています。

後記「(ⅴ)疑わしい取引の届出」における【対応が求められる事項】のほか、以下を含む、継続的な顧客管理を実施すること

イ. 取引類型や顧客属性等に着目し、これらに係る自らのリスク評価や取引モニタリングの結果も踏まえながら、調査の対象及び頻度を含む継続的な顧客管理の方針を決定し、実施すること

◆「調査の対象・項目」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

【全顧客】
 ・本人特定事項、顧客管理事項(取引目的、職業、事業内容等)の再確認
   +
【高リスク先】
 ・顧客及びその実質的支配者の資産・収入の状況、資金源等の確認
 ・現地確認・実在性チェック(顧客への訪問、実地調査)
 ・商業登記情報・決算書類・不動産登記情報の精査、風評チェック

◆「調査の頻度」の具体例

具体例は、次のとおりです。

(例)次の頻度で情報更新を行う。
 ・高リスク先:1年に1度
 ・中リスク先:2年に1度
 ・低リスク先:3年に1度
 ※期間を延ばす場合には、合理的かつ相当な理由が必要

この点について、金融庁 2022年4月公表「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022年3月)」には、次の事例が紹介されていますので、自組織の取組状況を確認しておきましょう。

 ◆取組に遅れが認められる事例

・顧客のリスクに応じた調査頻度や具体的な調査方法等の継続的な顧客管理を実施するに当たって、計画を策定していない。
・継続的顧客管理の実施計画上、取組開始時期が後ろ倒しとなっており、2024 年3月末までに完了する計画となっていない。
・既存先の情報更新に関して、アンケートの郵送・回収のみで対応しようとし、回収率が低水準である中で、その他の情報更新の方法について検討できていない。

 ◆取組が進んでいる事例

顧客の実態把握に当たっては、アンケート送付のみならず、来店時の店頭での確認、担当者の往訪、ネットバンクでの周知・情報取集、コールセンターでの情報収集、ATM 利用時の取引明細への印字による告知等、多くのチャネルを使って、顧客への働きかけや情報収集を行っている。

さらに、次の点が求められています。

ロ. 各顧客に実施されている調査の範囲・手法等が、当該顧客の取引実態や取引モニタリングの結果等に照らして適切か、継続的に検討すること

 ◆「適切か、継続的に検討」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

内部監査部門(第3線)や管理部門(第2線)が、継続的に確認し、必要に応じて、調査の範囲・手法等を見直し、顧客リスク評価を変更することも含む対応を検討する態勢を構築

さらに、次の点が求められています。

 ハ. 調査の過程での照会や調査結果を適切に管理し、関係する役職員と共有すること

この点について、金融庁 2022年4月公表「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022年3月)」には、次の事例が紹介されていますので、自組織の取組状況を確認しておきましょう。

◆取組に遅れが認められる事例

・経営陣は、担当部署からマネロン等対策に関する取組状況の報告を受けるにとどまり、ギャップ分析結果に基づき、ギャップを埋めるための行動計画の策定を指示していないなど、マネロン等リスク管理態勢の整備に向けた主導的な関与は十分なものとなっていない。
 ・経営陣は、マネロン等対策が経営の重要課題の一つであるとの認識が不足しており、また、四半期毎にマネロン等対策の行動計画の進捗状況が報告されているものの、計画どおり実施できなかった施策について、担当部署に対し、その要因分析を指示しておらず、進捗管理が十分に行われていない。

さらに、次の点が求められています。

ニ. 各顧客のリスクが高まったと想定される具体的な事象が発生した場合等の機動的な顧客情報の確認に加え、定期的な確認に関しても、確認の頻度を顧客のリスクに応じて異にすること

この点について、金融庁 2022年4月公表「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022年3月)」には、次の事例が紹介されていますので、自組織の取組状況を確認しておきましょう。

◆取組に遅れが認められる事例

顧客リスクに応じた頻度でリスク評価の見直しを行うとの手続としているものの、顧客リスクに影響を与える事象が発生した場合の検知方法、リスク評価の見直し手続について規程化・文書化していない。

さらに、次の点が求められています。

ホ. 継続的な顧客管理により確認した顧客情報等を踏まえ、顧客リスク評価を見直し、リスクに応じたリスク低減措置を講ずること
特に、取引モニタリングにおいては、継続的な顧客管理を踏まえて見直した顧客リスク評価を適切に反映すること

◆「顧客リスク評価を適切に反映」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

 (例)中リスク先⇒高リスク先
 ・モニタリングシナリオの見直し、敷居値を引き下げる

5.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】⑪

金融庁ガイドラインでは、次の点が求められています。

必要とされる情報の提供を利用者から受けられないなど、自らが定める適切な顧客管理を実施できないと判断した顧客・取引等については、取引の謝絶を行うこと等を含め、リスク遮断を図ることを検討すること
その際、マネロン・テロ資金供与対策の名目で合理的な理由なく謝絶等を行わないこと

◆「リスク遮断を図ることを検討」の具体例

 具体例は、次のとおりです。

・預金規定の内容等、顧客との契約関係に照らして、個々の顧客の事情・特性・取引関係やリスク管理に必要な情報が収集することができるかといった点等を踏まえ、個別具体的に丁寧に検討
    ↓
・リスク管理に必要な情報について、可能な限り収集し、これ以上手段を尽くすことが困難な状況になった場合、当該顧客に対してどのような制限を行うことが必要か、リスクに応じて総合的に検討

以上を参考にしながら、実効的な「継続的顧客管理(CDD)」実施していきましょう。

弊所では、犯罪収益移転防止法やアンチ・マネー・ローンダリングについて、講演・研修活動を通じて、態勢の構築をサポートしています。

過去の講演・研修活動については、「講演実績・サイト運営者」からご確認下さい。

講演・研修のご依頼、ご質問については、「お問い合わせ」からお待ちしています。

福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

【追伸】

この記事の内容は、YouTubeでも紹介しています。


いいなと思ったら応援しよう!