TakramCast「Design Engineeringとは #4」

Takramの中軸を成すDesign Engineeringについて語るシリーズの第4回です。今回は、特にプロトタイピングの手法とその目的について、2014年に出版した「デザインイノベーションの振り子」の内容を振り返りながら、Takramの田川と緒方が語ります。

( トークの導入部分は省略して、佳境に入ったあたりから抜粋 )

緒方 『デザイン・イノベーションの振り子』っていう本を書いたんですけど、その中に書いている話をちょっと振り返りながら、デザインエンジニアリングとはっていう話をちょっと振り返ってみたいなというふうに思っています。特に今日は、プロトタイプングっていうことを中心に話せればいいかなと思います。

田川 デザインエンジニアリングって、デザインとエンジニアリングと両方やりますっていうことなんだけど、具体的な仕事の中で何が質的にすごく変化になってくるかとか、ポイントになってるかっていうところで、このプロトタイピングの話はやっぱりデザインエンジニアリングと切っては切り離せない関係だなというところで、プロトタイピング、プロトタイプ、日本語に訳すと試作とか試作品に、ingが付くのでプロトタイプを作り続けること、プロトタイプを作ることっていう、そういうプロセスなんですけどね。デザインとエンジニアリングを両方やれる人は、中身のことをプロトタイプすることと、外側の使い勝手とか外観の形とか色とか、みたいなところのプロトタイピングを比較的短期間にまとめて両方やりこなせるようになっていくので、このプロトタイプをやる人っていう意味だとデザイナーとエンジニアとペアでやるパターンもあるけど、デザインエンジニアがやるとちょっとスピードが速かったりとか、精度が上がったりしますよねっていうところが一つ加わってっていうことで。プロトタイプについては、僕も緒方くんも日常的にあまりにやりすぎていて、もはや。

緒方 本に書いたのも3年前ぐらいっていう感じなんですけど、ちょっと改めて何を本に書いてたかっていうところを、ちょっと今振り返りながら始めたいと思うんですけど。そもそもプロジェクトの全体のプロセスの中で、プロトタイピングをどういうふうに使ってるかっていうところが一つあるかなと思うんですけど、割とプロジェクトの組み方も最近はいろいろ柔軟に、プロジェクトの性質によって結構組み立てから考えてるところもあると思うんですけど、とはいえオーソドックスなパターンとしては、最初にリサーチがあり、そこからインサイトといわれるような発見というか気付きを抽出して、そこからコンセプトを作って、今までの、というか従来的な考え方だと、コンセプトを決めたらあとはそれを形にしていって物を作っていくっていう、ウォーターフォール的なプロセスっていうのが一般的だったっていうところで、そこにプロトタイピングっていう考え方を持ち込むことで、コンセプト、最初にリサーチとかで抽出されるインサイトから生まれるコンセプトっていうのは、あくまでも初期仮説にすぎないというふうに考えて、それを実際に体験できる形に作りながらその仮説を検証して、必要であれば仮説を修正していくっていう、そのイテレーションを高速に回していくというプロセスが、すごく大事にしているポイントっていうことかなと。

田川 プロトタイプも、作るものがデジタル系のアプリとかウェブの場合と、ハードウエアが入ってくる場合と、ハードウエアも時計みたいなちっちゃいものから、家電のようなサイズ、あと大きくなると車とか家とか環境全体都市みたいなところまでで、じゃあプロトタイプって一体何ですかっていうと、それぞれ出口によってやることが違うんだけど、思想としてはやっぱり、今緒方くんも言ったけど、コンセプトを考えてそれを決めたものを形にするっていうことではなくて、具体と抽象を結構行ったり来たりしながら、そこの中で現実感もあるし、逆にコンセプトレベルの飛躍感もあるっていうのを、両方同時進行させることを可能にするのがプロトタイプですよね。デジタル系だと結構やりやすくて、そもそもウェブデザインとかアプリをやってる人たちにこのプロトタイプの話をすると、「え、それ、プロトタイプ作らないプロジェクトってあるんですか」みたいな、アジャルでやってる人たちだと結構そうで、当たり前すぎると思うんだけど、ただハードウエアが入ってくるタイプのものだと、意外にこのプロトタイプが実務に落としていこうとするとコストと期間がかかるから、デジタルほどやれないというか、やりやすくなかったりっていうこともあってね。

緒方 そうですね。なのでこの本に書いてるのは、どちらかというと少しハードウエア寄りのプロトタイプの作り方みたいなことが中心かなという気はしますけどね。考え方としては抽象と具体の行き来、コンセプトっていう抽象的なものを、目に見える具体的なものにするっていう意味では同じなんですけど、方法論としては結構、やり方がいろいろコツがいるよっていう話を書いてる感じですね。

田川 なんか面白くて、新しいものを作るときって、それが完成したときにどんな形になってるのかって、誰も想像つかないじゃないですか。それは作ってる側もある程度分からない中でやるので、コンセプトってすごく物語とか、箇条書きになったり、ダイアグラムだったりっていう、すごく人間が脳の中でどっちかっていうと記号として扱ってるようなタイプの抽象概念で。ただそれだけだと、それを見た人が納得するとか、肌感覚で好きとか嫌いとかみたいな、どちらかというとロジックじゃない部分でのものがすごくつかみづらくて、それだけだとやっぱりチームの中で決めていけないっていうかね。プロトタイプがあることで、使ってみて「はっ」と、「なるほど」って分かるってことと、ただ、具体だけでも駄目でねっていうところが大事で、結構プロトタイプの話するとリサーチとかインサイト作ったり、コンセプト作らずにいきなりプロトタイプ作る人たちもいて、それはそれで少し心もとないっていうか。だから具体と抽象の両方をクロスオーバーさせる、どっちかではなくてっていう。オアではなくてアンドだっていうところが、たぶん一つ大きなポイントなんだろうなとは思うところで。で、本の中だとプロトタイプを一応六つに分類してますね。

緒方 そうですね。プロトタイプの種類というか、やり方として六つに整理してて、それから目的みたいなものも三つ整理してるっていう感じですね。最初の、六つぐらいありますよっていう話としては、まず簡単なものからだんだん難しいものになってくっていう感じですけど、最初に書いたのは、ちなみにこのプロトタイピングっていう章は大体僕が中心に書いてたんですけど、スケッチっていうのを最初に入れてるんですよね。これは普通プロトタイピングには入れないのかもしれないなと思ったりするんですけど、いわゆるさっき言ったような抽象的な概念を具体にする、外に出してみる、頭の中から外に出してみるっていう意味では、スケッチも立派なプロトタイピングなんじゃないかなと思って、あえて入れました。次に書いてるのが、ダーティプロトタイプっていうやつですね。この本の挿絵としては、照明スタンドを作るみたいな例ですけど、スケッチはそのスタンドの絵を描いてて、ダーティプロトタイプは重しとものさしと紙みたいな、コップとか、そういうものを、鉛筆とか、そういうものを組み合わせて照明らしきものを作ってみてるみたいな絵が描いてあるんですけど、これは本当にワークショップとかブレーンストーミングをしている間に、その辺にあるものでもいいからとにかく具体的な形をその場に置きながら考えましょうみたいな、実際のサイズ感とかたたずまいとか使い勝手とかが、結構これぐらいでも分かることはたくさんありますよねという話ですよね。

田川 これは僕らの仕事の現場でも結構起こるよね。

緒方 そうですよね。

田川 そこら辺にある棒とか持ってきて、「ここにこんなんくっつけてさ」とかって言いながらやるだけでもね。またスケッチより飛躍した議論ができる。

緒方 で、次に書いてるのはテクニカルプロトタイプって書いてますけど、いわゆる原理試作とか言われたりするようなもので、思いついたアイデアとかっていうのは、実際に実現可能なのかどうかっていうことを検証するための試作っていう感じですね。

田川 ここがすごいデザインエンジニアリングっぽいなってとこで、テクニカルって付くから、例えばここで回路設計が入ってきたり、動くものだと機構設計が入ったりね。3Dプリンターでちょっとヒンジ作ってみたりとかいうことで、これはハードウエアの話をしてるからあれなんだけど、ソフトウエアの場合も、けどあるよね。気付いたことを簡単にアルゴリズム組んでみて、その場で実際に、いわゆる原理として動きそうかどうかっていうところの肌感をつかむっていう。

緒方 そうですね。

田川 このテクニカルプロトタイプを作ってるときに、大体初期仮説が外れて、けどやってるうちに違うアイデアを思いついたみたいな、そういうことも起きますよね、これはね。

緒方 多々ありますね。で、次に書いてるのはスタイリングプロトタイプと書いてますけど、いわゆるコールドモックとか、モックアップといわれるものは大体ここに入るかなと思うんですけど、いわゆるプロダクトデザインの領域で作るような、絵としては照明のスタンドの、本物に見えるんだけど付いてないみたいな。

田川 部品が入ってないやつね。

緒方 実際機能はしないけど、見た目としては本物に見えるというものですね。これもすごくプロセスとしてはすごく大事なプロセスですよね。いわゆるCMFみたいな話を確認するっていうのはありますね。

田川 HAKUTOプロジェクトで緒方くんのチームが作ったのも、このスタイリングプロトタイプだね。中身は入ってないんだけど、外から見ると皆本物だと思うっていうレベルですね。これすごく大事な、デザイン的なプロトタイプだね。テクニカルプロトタイプとスタイリングプロトタイプが、ちょうどデザインとエンジニアリングに対応してる感じですね。

緒方 そんな感じですね。だからここは、プロダクトデザイナーにとっては特に普通にやってることですよね。モックアップ作ってっていうプロセスは。だし、エンジニアにとってはたぶん原理試作を作るっていうのに当てはまりますよね。

田川 普通のこと。

緒方 それを1人のデザインエンジニアが両方見るっていうか、作るっていう感じですね。次が、ワーキングプロトタイプとこれは呼んでいる、それを二つ合体させたみたいなものですね。実際に体験として機能するというか、実際の本物が提供するような体験できるようなプロトタイプを作ると。この絵でいうと、スタイリングモックがちゃんと照明として機能してて、分かんないですけど、スマートセンサーが付いててみたいなことがちゃんと実装されてるっていう感じですよね。

田川 ワーキングプロトタイプまでいくと、かなり普通の人が見るとほぼ製品、できてるじゃないですかっていう感じで、だけど、量産設計がされてないのでね、量産そのまますることはできないんだけど、それが商品になったときに機能性としてどうなってるかとか、みたいなことは結構分かるっていう。これかなり作るの大変だけどね。

緒方 そうですね。

田川 だけど大きなプロジェクトになると、例えばカーナビのようなもの1個作るみたいなのだと、結構ワーキングプロトタイプ作るし。

緒方 NS4なんかはそうですね。

田川 NS4は結構ちゃんと作ったね。

緒方 いわゆるワーキングプロトタイプの王道的な感じですよね。ほとんどあれだけ見るとちゃんとした車のインテリアに見えて、ナビもちゃんとインタラクティブで触れてみたいな感じですよね。

田川 で、ここまで出てきたのがスケッチ、ダーティプロトタイプ、テクニカルプロトタイプ、スタイリングプロトタイプ、ワーキングプロトタイプっていうことで。複雑なものになるとこの五つを、結構この五つの順番で進んでいくのかなっていう感じだね。

(つづきは↓からどうぞ)

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