けしかけられた男(1)
机の前に座ってゐるうちに、いつしか窓の外は緑に満ちあふれた。昨日までは枝の間から向ふの丘の道や、白いバスや、家々などがはりきり見えたのに、今日はそのところどころしか眺めることが出来ない。何も書けないし、何も読めないので、私は此処から外の景色ばかりのぞんでゐるより仕方がなかった。時々トランプの一人遊びをやりながら、ある暗示とか、感動とか、美妙な綾のやうなものを心に把へることがあって、いきなりトランプを放り出しミヘンを手にして書き誌るさうとすると、其等は瞬く間に消えてしまふ味気