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【朔 #56】それでいいんだ、蛍なんだ

 二日前(二〇二四年三月二十一日)、火傷を負う。右前腕に熱せられた油が跳ねてきて、小さな滴であれば良かったのだがそれなりの量を受けてしまった。油が垂れる形に火傷が広がり、水脹れ、水が滲み、結構重度かも。痕は確実に残る。
 今年は本当に不幸が続く。真剣に先ず、神頼みをするべきかもしれない。
 荒ぶ、荒む、遊び、遊み。
 詩篇に手を入れる。これは火傷しないが、裂傷の危険。少し行数が膨らんだが、火傷の影響は及ばなかった。それでいいんだ、蛍なんだ(蛍火や手首細しと掴まれし/正木ゆう子)。
 我、垂、資、に火の記憶がないことを清少納言が許してくれるはずもない。淫らな悪癖がないことも。
 肉の裂け目から生まれてくる蜂の翅。ダリが見ていた。
 風俗通いの友人が連れて行ってくれた白昼の福原はなんだか、ぽっかりと、そのあたりだけが昭和で、レトロとかいう意味でなく、昭和の青天であった。小学生が通り過ぎる。見つめてくる老婆。遠慮がちに「いらっしゃい」と呼ぶ黒服。このまま贔屓の店まで一緒に行こうと言われたが、街の雰囲気を知りたかっただけなので、ひとり帰った。友人は一軒の風俗店に入る。あそこがお前の贔屓かい。
 待て待て、昼間か、ら?
 雨が、降ってきていた。
 菜の花が揺れている。

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