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【朔 #209】舟が笑った

 私が鹿を得る為にさんざん歩き回ったというのに、舟はすらりと水に乗って、容易く鹿を呑み込んだ。座頭虫の脚について。諸君、と呼びかけてみたいが、誰もいないので椅子を見ただけだった。あとは水だ、ひたすら水だ。神さびて、鹿も逐われるがわになる。薄紅葉の後天的挙措。眠る直前にいつも幻聴が聞こえてくる。ぼんやりと照らし出された私の服……フロイト的不安? おにぎり五つとパン一つ。ボルゾイも口もダメでした。でも、おはようございます、東からの巫女。そして知らぬ間の再会、どうも。新しい星は落ち着きがない。なんでも拾う生物学者と水澄んで、量子物理学の卵と鵙鳴いて、私には両手に収まるほどの歌しか無かった。充分だった。日本赤十字社社員。そういえば、神戸の図書館の近く、色づき始めた公孫樹の下に野村喜和夫によく似た紳士が本を読んでいたが、うん、飛火野の鹿は性的に爛れ、地の裂け目、水の途、月がとっても、楠。舟が笑った。舟は真っ黒な日傘を出して、「シミになるよ」とまた笑う。弓をください、弓を得るための脳をください。いただきに、あがります。

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