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【朔 #97】扇の震えも、蟹の死も、犬歯も臼歯も

 扇の震えひとつにしても、
 私にはない。
 湖底に死ぬ蟹ども。揺れ、やがて静まる碇の落下軌道に発情したら、青鷺の糞、若緑、ゆきゆきて夏、明易の歓びを窓枠に蝙蝠傘をひっかけて叫ぼう。新しい詩を書き始める。筒鳥の歌は、低く響くのみだけれども、今年はとにかくひと月一篇は書いておきたい。「雛の家(吉増剛造)」から聞こえてくる、のろのろとした牛の舌(夏草に延びてからまる牛の舌/高浜虚子)、そうか、ここで吉増剛造と高浜虚子が交わる鉄路がある。扇の震えも、蟹の死も、犬歯も臼歯も、寿ぐ。
 病院は鉄路?
 春暁は夏暁へ。小鳥は美しい、美しいとは美しい。

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