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【朔 #214】独和辞典を運河に投げ捨てるのはやめた方がいい

 本当に茸は秋の季語だなあ、と思った。奈良は茸、神戸は茸、私たちは茸。茸の傷は黒くなる。
 砂糖は無し。真鯉。
 虎と漸化式。冷まじき仏教建築の青銅屋根を降りてくる耳朶の列に呼び掛けて、陰陽五行説の紋様は賢い。木星から運び出した金属バットよ、人類の靴が漂う成層圏(漂えない)へ警察手帳を提示して、雲の裏側が痒くなる、ゆゆゆ、芋虫って素敵、柚子坊を忘れてしまう三十二歳春、愛か、電話をかけてしまってテキーラの瓶が悲しい。国道に灯るコンビニでピクルスを買いなさい。月と限界を協議した結果が人生である。課税対象のピザを焦がした、眼鏡のつるが太い山口誓子の写真も黙秘できないじゃないですか、だから、独和辞典を運河に投げ捨てるのはやめた方がいい。そのうち、木の奥で茸が青白い少年になる夜、槍鶏頭が逆回転、欲求不満の天馬の歯茎が赤く、夢は見る方ですが、ブラームス交響曲第1番の旋律とともに帰り支度を済ます。矢印の九十九折り。半額にしてくれ。樅の木に眠たそうな梟と隣り合う。
 四十八時間、それが私を分解するのにかかる時間だ。
 カラオケにでも行っとけ。

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