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【朔 #32】読点分の息で生きてゆく

 西区あたりの、ニュータウンというのか、画一的な規格の団地群に、軟らかな懐かしさよりも硬質な美を感じる。否、そんな飾り立てた言葉も要らない。生活の、淡々とした生活の灯を見つめていたい気がする、只管。
 一方通行、
 一方通行、
 どこもかしこも一方通行。
 一方通行!
 寛永通宝、の頃から、
 一方通行、……。
 雨の降る、家電量販店の駐車場で、
 あなたは未来のわが子を抱くのでしょう。
 アングル(Ingres)の運命の女神の腕。血飛沫から最も遠い静謐の腕。夏王朝を思ってしまうようなトラベラー。泉。
 捲し立てる。泉の字は梟に似ているわ。庭先でわきたつ花火には、もう、神は宿っていない。一度だけ、深い眠りの底を打ち、誰かを本気で愛してみたいと、安い歌詞みたいな願望を本心だと錯覚して、紛れ込もうとしている。でも、我々は梅じゃないか。歯茎の血の味が、孑然と梅じゃないか、暮色に紛れざる。接合。咬合。ハミング(humming)。
 高嶋樹壱さんの詩句。

お箸を、一膳欲しいだけです

高嶋樹壱個人詩誌『hummingboy』所収
「仕事帰りに東京へ行く」より

 この、読点分の息で生きてゆくことを、麦茶の色、或は裂け目とも開口とも言っていい。
 雨が続く。春の雨。暑くはないよ、これが、啞、田、鷹、……。眠気がないだけです。
 春潮を
 ぺたぺたと歩いていって、
 いつか会えたらいいですね。
 いつか逢えたらいいですね。

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