【朔 #223】洗濯機はあっても選択機はない
廊下に移動祝祭日が転がっていて、容易く踏みつけるとfの音が鳴る。欠伸も満足にできないし、な行の反応が悪いので、美術館には建築家が殺到するまで水牛とともに遊ぶ星の構成が、水を捲り、花を捲り、茫洋たる、とは使い古された天井を這う紫煙のような凡庸!
ときに、
馬鹿馬鹿しい選択。
洗濯機はあっても選択機はない。
それは波のようで雨であった……。深夜入れ替わり立ち替わりカップルが接吻するバス停のベンチの道を挟んだ反対側の墓地の向こうの森の向こうの歪な起伏の谷を丘を滑りつつアンテナにひっかかるのもどうしてもどうしても川に佇立する鷺の隣の鰡や紋白蝶やオイル缶や横断する自動車に手を振ってさあ河口の鵜よともに海峡をわたろ、わたろ、わたろ。冠鶴が逃げてゆく。
また、ある夜には猫が道の真ん中を歩いていて、しかしそれは狸であって、逃げたと思えば接近してくる。後退りしながら、道を譲ると不思議な鳴き声をあげて風船葛の枯れたフェンスをくぐっていった。洗濯機はあっても選択機はない。運命と雲梯の差は開けてゆくばかりだが、夜行バスで都へ上る計画は面倒くさい。