【雑文】夢日記(令和四年九月〜十月)
令和四年九月十六日
私に多い、映画方式。第三者視点。
私はTと母校の小学校、その一室で二人っきりで座っている。Tは別の小学校卒業。私は水仙の花が挿された陶器の花瓶を両手で包み込むように持っている。
T「複素数は……」
私「けれども、漱石の……」
T「湊かなえさんが島を散歩していて、私はずっとついて行ったら(私)君を見たんだけれどいつの間に来てたの?」
ここから私の視点。一人称視点。
私は沈黙した。それは生霊だと了解したからだ。それは湊かなえに憑いた生霊ではない。陶器の模様に目が行く。昔々見た特攻兵の手紙の文字がびっしりと描かれている。
いつのまにか君は赤い眼鏡をかけている。知らない眼鏡。掛けてたっけ。
漸く手を離して、胸ポケットを探ると生徒手帳が出てきた。君の。返却すると、君は退室した。水仙の白さが急激に茜色になる時、教室もまた夕方の姿になる。
机の上には給食が並んでいて、私は居残りさせられていたことがわかった。
場面転換
坂をおりている。長崎。
坂の下にTがいる。遠い。
手を振っている。急がないといけない。
何度もコケて、目が覚めた。
令和四年九月二十日
山にいる。真っ暗な夜の山を登りながら、雪の小面が何枚も何枚も木々の合間を浮遊しているのに囲まれている。遠目に見られている。六甲山だ。振り向いて麓を見晴らすと真っ暗。神戸はない、そう思った。再び登り始める。雪の小面は白く、闇の中でも一切翳ることなく見える。山頂の方から嬌声が聴こえてくる。嫌な気持ちになって、木に凭れ掛かると、カラカラと全ての雪の小面が地に落ちた音がした。電話が鳴る。出ると、耳元で嬌声が響く。ずっとそれを聴いていた。この声はきっとOだし、相手はきっとあいつなのだが、あいつの名を忘れてしまった。ずっと聴いているうちに、
目を覚ました。
令和四年九月二十一日
大学構内を出て、坂をおりていく。大阪湾の煌めきを見つめながら降りてゆくと、降りた先は明石市西部だった。ラーメン屋に入って、炒飯セットを頼む。頼んだ瞬間に店を出た。
海岸沿いの道を歩く。起きた。
令和四年九月二十三日
大阪芸術大学の学食でカレーを食べているUと喋っている。
私「ダリの雲についてすごく気になってんのよ」
U「うんうん」
私「多分やけど、賢治のそれとは違うんやろうな」
U「ボードレール?」
私「お前知ってる?」
U「うん」
彼女がボードレールを知っていることに驚いた。目を窓際に移すと芸大生が天照大御神らしき巫女姿の女神の下書きに着色していた。私の嫌いな画風だ。イラスト風の。絵画?
Tが迎えにくる。
目が覚めた。
令和四年九月二十六日
Mと帰る。どこへかはわからない。しかし、高校からの帰りであることだけは確かだ。
彼は晴れているのに、黒い傘を持っている。私も黒い傘を持っている。同じ天気予報を見たのだろう。夕方から雨、と言われていた。
さわやかなJR灘駅前の空を眺めて歩いていると、突然Mが結婚を報告した。一瞬にして私は喜びの最高潮に達し、黒い傘と自らの鞄と眼鏡を渡した。
私「誰と?」
M「Oと」
私「Oって、 O・A?」
M「いいや、O・M」
一瞬の安堵、その後肝心なことを忘れている気がして、とにかくMを祝おうと手を叩いた。
場面は刹那に変わり、
生田神社で神道式の結婚式。私は新郎家族と末席に座っている。着たこともない立派な袴を私は着て、新郎家族、新婦家族は洋装だった。
長々と神主が何事か神に言挙げている。
私「言祝ぐとは口に出して……
来ぬ人をまつほの浦の夕凪に焼くや藻塩の身も焦がれつつ、とは藤原定家。桃の夭夭たる」
神社裏手にある森から鳥の囀りが満ちてきて。
目が覚めた。覚めた途端に風邪気味であった。
令和四年九月二十七日
廊下を歩いている。深夜の病院の廊下をひたすら歩いている。
起きてから覚えているのはこれだけだ。
令和四年十月二日
電車に乗っていると、隣の車両からTがやってきて私の隣の席に座った。快速車両。前向きの二人分の席。窓際に私、通路側にT。そのほかの席には誰もいない。窓外を過ぎる六甲山と手前の神戸の街並み。
ただ黙っているだけで、良かった。
夢は別の物語へ。
自室で探し物をしている。何を探しているかわからないが、とにかく焦っている。
ピンポーン。
呼び鈴が鳴る。無視して探している。しかし、同じところばかりを探しているから進展は見られない。
作業机、本棚、玄関、皿置き場、便座。
作業机、本棚、玄関、皿置き場、便座。
作業机、本棚、玄関、皿置き場、便座。
作業机、本棚、玄関。
玄関の三和土の上に落ちてあった携帯。いつのまにか置かれていた携帯が探し物だった。電源をつけるとLINE通知がきている。
(Tから二件)
文言は覚えていない。
目が覚めた。
令和四年十月三日
Oの葬式らしい。通夜かもしれない。
棺から一メートルほど離れて、窓を覗けないでいる。遺体を見たくない。永遠に見つめられもするが、黒服の男たちが窓を閉めて棺を担ぎ、運んでいってしまった。ぞろぞろと参列者がそれについていく。会場に一人残される私。遺影には青い背景のみが写っていて、誰も写っていない。
プゥーーーーーーーーーー!
さようなら。と心で言って、手に持っていた菊の花を何も写っていない遺影に掲げた。
すると外からSが戻ってきて、私の首に接吻した。そして、また出ていった。
私も外へ出た。出た途端に、海が広がっていて、渚にはSが裸になって海に駆け出していた。
私は汀に佇む。
目が覚めた。
令和四年十月四日
知らない女とまぐわっている。自宅の風呂場、狭い中で。この女、雲のように軽い。故に、体がぶつかり合っているような感覚がない。腰を打ちつけて、難儀しながらも射精した。
物語転換。
何台ものバイクが国道二号線をずっと走り抜けていく。国道二号線と言いながら、道沿いに建造物はなく、山と海、恐らくは六甲山と大阪湾の間を真っ直ぐと道が伸びている。バイクは同じ形の、ライダーも同じ服装でみな岡山へ向かっている。私は大学へ行こうと大阪へ行っているのだが、一向に神戸を(と言っても神戸らしいのは地形だけだが)抜け出せない。
ふと山へ行きたくなって、山へ歩き出した。建造物のない、一直線に麓について木々の中へ。
いつのまにか明石海峡に居た。舞子らしいが、あの松林も舞子駅も移情閣もなく、しかし明石海峡大橋は存在していた。
かの激しい流れを渡って、誰かが泳いでいる。遠泳か。誰かはわからない。男のように見えるが、それも上半身が裸であるからそう判断しただけ。
物語転換。
二階家の一階に居る。知らない家だ。二階では誰か複数人で話しているが、はっきりとは聞き取れない。わかるのはみな、日本語ではないということだ。
私は立ち上がり、階段をのぼった。三段のぼると、もっと段数があったのに、二階に着いた。二階に着けば声もはっきりして、何語かがわかった。韓国語、ドイツ語、スペイン語、日本語。
襖を開けた。畳に洋風の立派な椅子を四つ置いて、車座になっている。全員がこちらを向いた。朴正煕、メルケル、ダリ、Tだった。瞬時にメルケルの首はもげて、Tはあからさまに嫌がって転がってきた生首を蹴り飛ばした。生首を見ると、それはメルケルではなくフランコの首になっていた。
畳に転がるフランコの首。断面には血液ではなく白濁とした粘液をとろとろと流れている。
ダリの髭。
目が覚めた。
令和四年十月十日
星も月もない夜空。眼下に広がる街の明かり。夢の中では、神戸か函館か、と繰り返し幼女に問われている。
幼女「神戸なん? 函館なん?」
幼女の母が慌てて回収しにきて「すみません」と早口で言って走り去った。
暗い丘をぐるぐると徘徊した。
目が覚めた。
令和四年十月十四日
蛇。道路の上を這っていく。
私が国道二号線沿いを歩く。夕焼け。車は通らない。それでもガソリンスタンドは煌々と灯りをつけている。
歩道橋に上がって、東西を見回す。
目が覚めた。