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【朔 #195】蜘蛛には見えない

 ここに、ひとつだけメモを写す。

桜ヶ丘1号銅鐸
見えない蟷螂。鹿がずらずらと歩き出す。人も、角を有っていた時期がある。

帛門臣昂『句帳 漆』

 桜ヶ丘銅鐸・銅戈は国宝に指定されている。今年で発掘から六十年らしい。
 去年だったか、神戸市立博物館のコレクション展に行き、最初に見たのが桜ヶ丘銅鐸だった。14号まであり、銅戈は七本。充実したコレクション。4号銅鐸に描かれている謎の動物(これは、私にとって判別不能というわけではなく、研究者たちもまだ確定できていない、という意味で)に非常に惹かれたのだった。一応は『クモ?』と仮説も説明に入れてくれているのだが、私には蜘蛛には見えない。疑問符ひとつで、この銅鐸の魅力は一気に増した。
 他にも鹿や蛙や蛇や蟷螂まで出てくる。そのどれからも、稲作の雰囲気が出てくるのだから不思議だ。バイアスかもしれない。振り払え。
 桜ヶ丘銅鐸で最大のものは、しかし、動物や人物を描かれていない。渦があるのみ。それは、海への畏怖ではないか。私はここに、丸木舟を浮かべたい。弥生だとか、稲作だとか、知らない。どこかへ行きたい。
 本当は詩にしたかったのだけれども、メモで止まってしまった。
 珍しく創作意欲が湧いてきたのは、直前に三宮図書館(ここは夢の中かと思った。私の理想とする空間がそこにはあり、古い建物の中に真新しい部屋があるものだからデペイズマンだ。もともとここは生糸の検査場だったらしく、生糸の品質を検査していた機械や資料やらが展示され、私しか居なかったが、その生糸一本から……)で借りてきた『北村太郎の仕事① 全詩』(思潮社)と鳥居万由実『「人間ではないもの」とは誰か 戦争とモダニズムの詩学』(青土社)の所為だろう。まだ読み進めてもいないのに、さ。

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