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【朔 #158】若さはまた

 ああ、そうそう、
 若さについてね。
 その前にもう一杯いただけますか。
 なんせ虚子の蟬について語るのに必死で。
 はいはい、それでですね、藤田湘子と飯島晴子という俳人を……
 知らない?
 そうですか、
 いえ、教科書にもあまり載らないので、当然です。
 若さはまた餓にも似たり花葵/藤田湘子
 穴惑刃の如く若かりき/飯島晴子
 この二句なんですがね。
 両者とも自らの少年期なり青年期を回顧した句だと解釈できますが、
 どうも、私は「若さ」というものがわからないので、
 古い型でもいいから青春みたいなものを覗いてみたかったんです。覗くと、
 さらにわからなくなりました。
 これ、なんていうんでしたっけ、ほら、ナントカの穴ってやつ、神話の。穴の中身を知ろうとすれば、忽ち、記憶と知覚が奪われる……
 知らない?
 そうですか、
 いえ、私の想像の産物かもしれませんし。
 とにかく、二句。
 若さは餓えに似ている、と言われても、思えば生まれてこの方、ありがたいことに真の餓えを知らずに生きてきたもので、ピンとこない。
 刃の如く、と言われても、切り付ける側なので切られてみないとわからない。そもそも、そんな鋭利なものが、
 そう、
 そんな畝るような力を若さのうちに感じたことがない。ただ、沈滞、請来、請来。
 虎が立ち上がった時に俄かに現れたふぐりも、蓮の葉の裏に犇めく藻も、桃、股、私たち、太刀、立葵、
 あっ、
 すみません、もう一杯。
 えっ、用意していた分はもうない?
 あらら。
 面白いですよ、ええ、顔が真っ白です。
 横になった方がよろしい。さあ、日陰へ。
 とりあえず、ここで止めますが、最後に一つ、
 卵は茹でてありますか?

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