【朔 #31】アングル(Ingres)狂い
アングル(Ingres)狂いが再発してきて、そんな時に新潮美術文庫で見返すのは「グランド・オダリスク」ではなく「アンジェリカを救い出すルッジェーロ」であった。
あの奇妙(ビザール、bizarre)な首の湾曲、翼の裏に萎えるように伸びているルッジェーロの脚、岩に無数の顔を幻視して、我が歯の不安が槍の差し込まれる怪獣の歯に鈍く映る、移る。
見えないか、
見よ、
アンジェリカのしどけなくも緊張している腕から線を引くと、そこには闇中に幽かな火。きっとこれは花篝。かなつがり(鉄鎖)、かがり縫い、鷹狩、鷲?
おお、有翼の神馬よ!
音速は超音速へ。
アンドロメダとペルセウス。
そして、オルフェウス。
波頭、八頭、
怒濤そのものが、
ひとりのをとめ。
崖を攀じ登る。
崖を遡る。
静止した、
英雄譚が少しずつ、
緩んでゆく。
緩んでゆく。
アングル(Ingres)が書けば、
みな陰を縫われてしまうよ。
滑らかな股、将又、
をんな、……。
そのうちに、ドガ(de Gas)狂いが始まるかもしれない。