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美しい土地、景観を引き継ぐ

先日の投稿で、学会のテーマとして土地利用が話題になったことを書きましたが、関連する仕事として、平成24~25年度に携わった兵庫県篠山市の都市計画マスタープラン・土地利用基本計画の業務のことを振り返ります。
※いろいろと思いもあって、少し長文となります。ご容赦ください。

農の都、篠山

篠山市は、市域の75%を森林が占め、盆地には農地が広がり、農業が盛んで、黒大豆などの特産品が有名です。平成21年2月に発表された「農都宣言」では「自然の気候風土に恵まれた日本一の農業の都、篠山市」を謳っており、特に秋には、多数の観光客が篠山を訪れます。

※篠山の魅力を感じてもらうための映像づくりも映像作家の人らと取り組みましたので、そちらもご覧ください。
https://tourism.sasayama.jp/omoigatari/

また、篠山市は、平成の大合併のモデルとしていち早く合併を実現したところでもあります。つい先日、「丹波篠山市」への市名変更の住民投票が行われ、賛成多数になったのは記憶に新しいかと。

兵庫・篠山市 「丹波篠山市」変更が賛成多数 住民投票
https://mainichi.jp/senkyo/articles/20181119/k00/00m/010/115000c

丹波の森構想と緑条例

篠山市のまちづくりを語る上で、丹波の森構想がベースにあると思います。丹波地域をウィーンの森に、という当時の兵庫県知事貝原さんの提唱により、丹波の森構想が策定され、その実現に向けて緑条例というツールが用意されました。

丹波の森構想はこちら。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/tnk11/tanba/tamba_mori.html

これは、非線引き※の都市計画区域において、土地利用を4つの区域にゾーニングし、それぞれに土地利用を保全、形成するための基準を設けて開発を誘導するというものです。当時、非線引きの都市計画区域にはゾーニングの考え方がなく(正確には、農振法による農用地指定などは存在していましたが)、開発の調整を図る機能は備わっていませんでしたので、緑条例はその当時にしては画期的な制度だったと思います。

※非線引き:開発圧力が都市部ほど高くないことから、市街化する区域と市街化を抑制する区域の区分をしていないこと。
緑条例はこちら。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks20/wd23_000000012.html

丹波地域では、この制度をさらに活用して、地域づくりのツールとして応用しました。緑条例には計画整備地区という制度があり、端的には、地区や集落単位で、前述の4つのゾーニングに拠らない土地利用を計画として定めることができるものです。集落に入り、住民の方と膝を突き合わせ、魅力的な村づくりをどうしたら実現できるか、を話し合いました。その議論の結果として導かれた地区の土地利用の計画を、この緑条例で担保する、そのようなまちづくりを地道に進めてきました。

築城400年祭、その後の動き

もちろん、土地利用の誘導だけでは集落の持続性を生むことは不可能で、いかに住み続けていくか、そのために空き家の活用にも積極的に取り組んできました。

そうした動きが広がっていく契機になったのが、平成21年に開催された築城400年祭かと思います。プレも含めて、様々なイベント・プロモーションが展開されましたが、それと並行して、まちの歴史や環境に惹かれ、自ら取り組んでいこうとする人材、そしてそのつながり・ネットワークが生まれ、今日の篠山のまちづくりの推進力になったのではないかと思います。

このあたりは私が仕事で取り組んだわけではないので詳しくは触れませんが、篠山における空き家活用はまたどこかで述べたいと思います。

非線引き都市計画区域で、都市計画は何をなすべきか

話を戻して、そのようなまちにおいて、都市の姿とはどうあるべきか。

篠山市は非線引きの都市計画区域で、用途地域は駅周辺に設定されていますが、市域のごくわずかで、大半は豊かな森林、農地、集落で占められます。
篠山市の人口は4万人強から減少傾向にあり、特に駅や市街地から遠い、東部での人口減少が著しく、今後ともこの傾向が続くと予想されています。

人口減少下において、これまでの開発誘導型のまちづくりが通用しない状況で、かつ、農地等が主体の土地利用の中で、都市計画において何を目指していくべきなのか・・・。

そこでたどり着いた将来像が「農の都」。「農」が培ってきた空間が営みや文化の源となり、現在の豊かで住み良い環境を支えている。この事実を認識しながら、これからも「農」を基盤にしたまちをめざそう、というものです。身の丈に応じた形で、篠山が持っている豊かな資源を誇りにしながら、地域で暮らし続けられるまちをめざす。この考え方が計画全体に通底しているテーマであり、土地利用や都市基盤、安全・安心のまちづくりといった各方針に展開されています。

随所に「農」が出てくる篠山市らしい計画ですが、都市計画法に基づくマスタープランとしてはずいぶんと思い切ったつくりになったのではと思います。

「小さな拠点」づくりを組み込んだ地域別構想

篠山市は19の旧小学校区単位でコミュニティのまとまりを形成し、各校区での地域づくり協議会が設立され、住民主体のまちの計画づくりから実践までを担っています。その方々との意見交換を参考にしながら、地形条件、都市機能の配置から19地区を4つの地域に分類し、空間づくりの指針となる地域別構想を策定しました。

この中では、空間づくりとして「面」(土地利用計画)、「拠点」(暮らしを支える拠点の計画)、「線・点」(施設配置・活用計画)、「質」(風景・景観形成計画)の4つの段階を設け、地域別に考え方を示していますが、中でも各地域が「小さな拠点」をめざすことを位置づけた点が特徴です。

「小さな拠点」とは、人口減少・高齢化が進む中、小学校区など複数の集落が集まる地域(集落地域)において、買い物や医療・福祉などの生活サービスや地域活動を、歩いて動ける範囲でつなぎ、各集落との交通手段を確保するものです。 

篠山市内では協議会やNPO等により、空き家を活用した飲食店・宿泊施設の誘致や、住民による空き家紹介・体験サービス、さらに廃校を改装したカフェ・レストランの運営などの「小さな拠点」づくりが各地で実践され、新たな住民を呼び込んでいます。さまざまな知恵を使い、外部の力も借りながら、自分たちの集落を自分たちで考え、住み続けるまちにしていく取り組みを応援するもので、まさしく縮小時代の集落のあり方を体現していると言えます。

土地利用基本条例・基本計画による「農の都」の実現

これらのビジョンを永続性を持った未来の土地利用のあり方として位置づけ、実現していくために、市独自の土地利用基本条例を制定の上、国土利用計画を組み込んだ土地利用基本計画を策定しました。

特徴としては、土地利用の6つの基本原則と8つのゾーニングを条例で謳い、その実現を担保するために、基本計画でゾーニング毎に建築物の立地基準を定めました。

「農の都」たり得る重要な土地利用である森林、田園のゾーニングでは、農用地は原則として保全することを位置づけた上で、建てられる用途を絞ったり、立地の際でも既存宅地との隣接を条件と設定したりして、基準に適合しない場合は、条例に基づく審議会で意見を聞き、「農の都」篠山の美しい空間形成につながるものを個別判断するという仕組みも設けました。「農の都」篠山にとって、土地利用は生命線なのです。

※篠山市土地利用基本条例より
(土地利用の基本原則)
第4条 篠山市における土地利用は、次に掲げる事項を基本原則として行わなければならない。
(1) 山々に囲まれた盆地や谷筋で、農の営みを優先してきた地域の土地利用の保全及び継承を図ること。
(2) 農業を基盤として形成されてきた農村集落、農地及び里山等と、これらが形成する美しい景観の保全及び継承を図ること。
(3) 市街地の無秩序な拡大を抑制し、集約的な市街地の形成を図ること。
(4) 市街地外縁部における緑地の確保及び緑化の推進を図ること。
(5) 城下町、街道町等の歴史的な土地利用の継承及び地域の振興につながる施設の誘導を図ること。
(6) 産業の振興につながる施設の誘導を図ること。

この条例・計画は、篠山市が実践してきた計画論の一つの到達点と言えるでしょう。さらに、市全体の土地利用誘導の仕組みとあわせて、集落単位での土地利用計画づくりも並行して進んでいます。

この仕組みはさらに発展を続けており、つい先日には、新たに太陽光発電施設に関する土地利用の方針及び設置基準(太陽光発電施設の設置を原則、禁止する区域など)が土地利用基本計画に位置づけられました。

おまけ

この都市計画マスタープラン・土地利用基本計画策定の前に、景観法の成立を踏まえた景観計画の策定も重要な動きかと思います。分量の関係で省略しましたが、ご容赦ください。

篠山市の都市計画・土地利用計画の経緯については、都市計画マスタープランの中にまとめています。下記のリンクのP13からご参照ください。これを整理できたのが、ごく個人的な成果の一つと思っています。

また、もう少し専門的な紹介は、下記、日本都市センターによる「超高齢・人口減少時代の地域を担う自治体の土地利用行政のあり方」の中にありますので、こちらもお読み頂けると、より理解が深まると思います。

http://www.toshi.or.jp/?p=12512

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