【対談】葛藤や苦悩の先に生み出す、新しい"日々"の風景【淀 大祐 × 絹張 蝦夷丸】
2024年6月22日、上川町のまちづくり会社EFC inc.が手がける泊まれる複合施設「ANSHINDO」がいよいよオープンする。
「まちを照らし、つなぐ灯台」をコンセプトに、1階には雑貨やお土産などを販売するギフトショップとカフェバー、2階には上川町での「生活観光」を体験できるマイクロホテル、3階にはローカルスタートアップやワーケーションの拠点となるシェアオフィスが入る3階建てのリノベーション施設だ。
そしてその1階のカフェには、KINUBARI COFFEE(以下:キヌコー)の2号店となる、ベーグルとハーブティーの専門店「Bage & Herb tea hibi」(以下:hibi)が出店する。
今回は、hibi出店の経緯や、コンセプト、そしてオーナー蝦夷丸と、新店舗の店長となる淀の葛藤や新たな挑戦に対する思いを聞いた。
聞き手は、二人が地域おこし協力隊として活動している頃から公私共に交流の深いタサキアツヤ。執筆現在もANSHINDOの改装に勤しむ大工でもある。
ベーグルとハーブティーの専門店「Bage & Herb tea hibi」
アツヤ:hibiはどういう経緯でANSHINDOに入ることになったの?
蝦夷丸:ANSHINDOの1階のテナントに入るお店をずっと募集してたんだけど、全然決まらなかったんだよね。でも、もし決まらなかったらキヌコーの2号店にすればいいか、とは思っていて。
結局そのままテナントが決まらなかったから、キヌコーで出店することにして、今のタイミングでキヌコーが2号店を出すとしたら、絶対ベーグル屋良いなって思ったんだよね。
蝦夷丸:とはいえ、やるかやらないかは大祐さん次第だったから、大祐さんがやらないですってなったらまた別のお店を考えなきゃいけなかったけど、聞いたら「やりまーす」みたいな感じだったから、ベーグル屋にすることになった。
アツヤ:なるほど。「hibi」っていう名前はどうやって決めたの?
淀:僕が参考にさせてもらってるお店が、「毎日食べても飽きないベーグル」みたいなコンセプトで、僕もそのニュアンスが良いなと思っていて、ベーグル自体に特別感とかパンチのあるものより、どちらかというと日常に溶け込むような、地味な感じが良いっていうのを話してたら、バリさん(蝦夷丸)が「hibi(日々)が良いんじゃない?」って言ってくれた。
蝦夷丸:そうそう。そんな感じだったよね。
アツヤ:hibiはどんな店になるの?
蝦夷丸:「まちの朝の顔」としての店にしていきたいって考えてて、そもそもキヌコーでモーニングやり始めたのも、まちに朝の店が必要だなっていう思いがあって。
蝦夷丸:あとは大祐さんのライフスタイル的にも朝の方が合ってそうだからね。しかもANSHINDOは宿だし、朝食があった方が良いから、モーニング営業もするベーグル屋さんでいこうって感じだった。
アツヤ:なるほど。営業時間とか、メニューはどんな感じ?
淀:モーニングは7:30〜11:00で、ベーグルのモーニングプレートを出す予定。その後の11:00〜14:00が通常営業。今キヌコーでは大体5種類くらい焼いてるけど、オーブンのサイズの関係もあってあまりたくさん用意できてなくて完売しちゃうことも多いんだけど、hibiでは大きめのオーブンを入れたから、季節限定のものも含めて10種類くらい用意しようと思ってて、個数も増やそうと思ってる。あとベーグルサンドとかも出す予定です。
蝦夷丸:楽しみだな、ベーグル。大祐さんのベーグルまじで美味いからね。カリッもちって感じ。
淀:朝パンの香りで目が覚める宿っていうのも良いよね。
蝦夷丸:それ良いよね! まずANSHINDO自体が空間としてめっちゃ良いし、2階に泊まって朝起きて、1階に降りてきたらベーグル焼けてるんだよ? 最高過ぎない?(笑)
アツヤ:ハーブティーもあるんだもんね、最高の朝だ。
蝦夷丸:ベーグルとハーブティーの店がANSHINDOの1階にあるって組み合わせ、バチっとハマってる感じがする。
蝦夷丸:あと、上川はラーメンが有名な町でもあって、ラーメン屋さんが多いから、昼にラーメン食べた後にANSHINDOのショップで買い物するついでにハーブティー飲んで、お腹落ち着かせられるのも良い。
淀:そうそう。キヌコーのランチも割と量が多めだったり、濃いめの味のメニューが多いから、今キヌコーで出してるハーブティーもスッキリとした消化促進の効果もあるオリジナルブレンドを作ってるんやけど、ANSHINDOの方では、朝の始まりみたいな、ちょっと気分高める感じにしたりとか、ゆったりとしたい人にはリラックス効果のあるブレンドで、2〜3種類やろうかなと思ってる。ハーブそのものに関しても、なるべく近場で育ててる人のところから仕入れさせてもらって、10種類くらい用意したいかなぁ。
蝦夷丸:あと、お客さんの好みとか体調に合わせて、大祐さんがオリジナルでブレンドするオーダーメイドハーブティーもやる予定。
アツヤ:へぇ、めっちゃいいねそれ!
淀:ハーブの種類とそれぞれの効能が書いてあるカウンセリングシートみたいなのを用意して、お客さんにその場で記入してもらって、それを元に僕がブレンドして提供するようなイメージ。たまにイベントとかでやってたけど、それを店で常時提供できるようにしていこうかと。
※オーダーメイドハーブティーは7月から提供予定
まちの中心部に生まれようとしている、縁側的風景
蝦夷丸:きっとこれから、ANSHINDOとかキヌコーの周りを歩く人が増えるのは間違いないと思うんだよね。上川のまちの中心部が、ご飯食べて終わる場所じゃなくなるっていうか。ANSHINDOが良いのは、ショップがあって、カフェもちゃんとあるから、ふらっと立ち寄れて時間を過ごせる場所になりそう。
蝦夷丸:窓際のところに、二人掛けの席を作るんだけど、その景色を外から見たらめっちゃ良いんだろうなって思うの。向かい合ってる人を外から見る感じ、なんか良くない?
淀:わかる。僕、縁側がとても好きで。中でもなく、外でもなく、その狭間のところで、一人でお茶を啜っててもいいし、なんかふと近くを通った人が話しかけてきて、一緒にお茶会が始まる時もあるみたいな。初対面とか、一期一会が続く時もあれば、前会った人が久々に会いにきてくれたりみたいなのが、ちょうど良い感じがして。だから、僕にとっても宿の1階でhibiができるっていうのは結構楽しみなところやね。
蝦夷丸:たしかに、縁側だ。大祐さんは、日々出会う人が、日々違う人であることの不確定さみたいなものに、心地良さを感じるのかなって思ってて。hibiは上が宿で、普通の飲食店とかカフェとはちょっと違う、偶発性の高い感じというか、遠い人との接点になるみたいな。大祐さんは、遠くから来てる人と、近い距離感でコミュニケーションするみたいなところに面白さを感じてるのかもね。
淀:完成したばかりのカウンターの中に実際に立った時に、なんとなくやけど、これからどんな風にhibiをやるのか、想像できた気がする。
蝦夷丸:この間カウンターができて、入口のドア開けて中に入った瞬間に、匂いしちゃったもん。まだ全然工事中だからそんなわけ無いんだけど(笑)ベーグルとハーブティーとコーヒーと、なんか匂いがした気がした。「ANSHINDOってこういう匂いになるんだ」みたいな、いよいよだなって感じ。
なんかさ、初めてお客さんがきた時とかさ、大祐さんめっちゃ緊張しそうじゃない?(笑)ハーブティーを注文してくれたお客さんにカウンセリングシート渡す時に声が裏返ったり、手が震えたりするんだろうなぁ。
淀:多分露骨にするよ(笑)
「ベーグルを焼くこと」とは
アツヤ:hibi始まるの楽しみ、大祐さんの新天地になるんだなぁ。
蝦夷丸:そういえば店の名前を決める時に、大祐さんがなぜベーグルを焼くのかっていう話も結構したよね。
淀:したした。なぜベーグルを焼くのが好きかの話をして。毎日同じことの繰り返しの中に変化があるのが楽しいんだってことに気づいたんだよね。季節とか気温とか湿度によって、捏ねるときの感触が違ったり、それに合わせて水分量や捏ねる回数、発酵時間を変える。同じベーグル作るっていう作業の中でも、そんなちょっとした変化があるのが面白くて、他のことをあんまり考えないでベーグル作りに没頭できるところが、ベーグル作りが自分に合ってるっていうことなんだと思う。
蝦夷丸:そうそう。それで、最初はそういう自分が好きだからっていう自分に向いた矢印の話をしてて、それは利他利己でいうと利己の話だけど、そのあとhibiというお店としてベーグルをお客様に買っていただくっていう意味で、ベーグルを焼く利他的な理由ってなんなんだろうねみたいな話をしてて。
アツヤ:利他的な理由かぁ、なるほど。
淀:うん。今は毎週キヌコーにベーグルを買いに来てくれるおばあちゃんもいたりして、そうやって飽きずに買いに来てくれることがすごく嬉しいし「ベーグルに苦手意識があったけど、ここのベーグルは美味しいですね」とか「また食べに来たいです」って言ってくれるお客さんもいて、とってもありがたいなと。
淀 大祐の葛藤
蝦夷丸:それで、それはきっと「日々のベーグル」を作りたいってことだねっていう話から店名が「hibi」になったっていうのもあるよね。ちなみに改めて聞くけど、ベーグル屋をやろう!って俺が言ったとき
「よっしゃやるぞ!」って感じだった?
淀:ん〜正直なところを言うと、NOって言うタイミングめっちゃ逃したなっていうのはある(笑)
アツヤ:圧があった?(笑)
蝦夷丸:え、そうなの?(笑) でも割とさ、俺は逃げ道を用意した聞き方はずっとしてたじゃん。
淀:そうだね。
蝦夷丸:別に大祐さんが、やらないならやらないで別のやり方とか別の人とかも考えるから、乗り気じゃないなら全然大丈夫だよって聞いたけど、「いや、やりたいわ。やるわ」って、その時の気持ちってどうだったの?
淀:なんていうか、「やりたい」というよりかは、「やんなきゃな」っていう感じだったかな。
蝦夷丸:ほう。それはどんな感じ?
淀:キヌコーの店舗で働いてて、ベーグル焼いたりとか、コーヒー淹れたりとか、ホールやったりしてるけど、多分いっくさん(KINUBARI COFFEEの店長)が求めてる料理の方ってのは、僕は全然できないなって思ってて。
でも、もう一個なんかできることをやりたいんだけど、何をしたらいいんだろうみたいな感じで、ずっとモヤモヤしてて。それで今回バリさんからANSHINDOの話が出た時に、これは場所を変えてもう一個先にできることが用意されたなっていう。
アツヤ:モヤモヤはしてそうな感じは確かにあったけど。蝦夷丸もそんな感じ?
蝦夷丸:用意したっていうよりは、なんかお互いにとっての挑戦であれって思ったんだよね。キヌコーの場合はさ、先にキヌコーがオープンして、後に大祐さんが働くことは決まってたけど、オープンしてから時差的に大祐さんがジョインしたみたいな感じだったじゃん。でもhibiの場合は、もう最初から大祐さんと一緒に作る店だから、これはお互いにとっての挑戦であれ!って思ってる。
蝦夷丸:一個なんかやるって決めた瞬間に、パーンって気持ちが切り替わって覚悟が決まるって、よっぽど大きな出来事がないとそういうことってないなぁって思うんだよね。大祐さんがここでベーグル屋やることで、なんか少しでも変わったらいいなっていうのは思ってて、めっちゃお金もかかるしオープン準備はもちろんめっちゃ大変なんだけど、とはいえ俺にとってもそんなにめっちゃリスクがあったりとか、負担が大きすぎるわけでもなく、EFCにとってもhibiがANSHINDOに入るっていうのは集客的にもめっちゃありがたいことだから、今できる一番良い形だと思ってる。
アツヤ:そうね、すでにキヌコーのベーグルを知ってる人は多いわけだから、それをきっかけにANSHINDOに入ってくれる人もいそう、いいじゃん。ちなみにさっき「NOっていうのを逃した」って言ってたけど、逃したなって思ったタイミングあるの?「うわぁ、あの時だったなぁ、あの時にやっぱやめますって言えばよかったなぁ」みたいな(笑)
淀:明確にいつっていうよりかは、常にあった気がした。
蝦夷丸:常にずっと?やっぱやめますっていう自分を抱えてたってこと? 今も?(笑)
淀:今もちょっとあるよ(笑)
アツヤ:あるんかい!(笑)
蝦夷丸:まじか!(笑) そのさぁ、やっぱやめたい気持ちって、どういうことなんだろう?普通にやりたくないって感じなのか、なんか背負いきれないみたいな感覚なのか、面倒くさいって感じなのか、、、
淀:なんだろう、決めたくないっていう感じかな、、、
蝦夷丸:覚悟ってこと?
淀:覚悟とか責任みたいな。そういうのから逃れたいって気持ちは常に、正直今もあって。
蝦夷丸:でもそれを突破できないでいる自分に対して、モヤモヤがずっとあったってことなんじゃない?大祐さんがhibiを始めることで、そこを突破できたらいいよね。
蝦夷丸:そのためにも、自分で自分がやったことをちゃんと認めるっていうのが大事なのかも。今回だったらロゴに関しては、大祐さんから出てきたインスピレーションを元にが出来上がってて、思いが反映されてるじゃん。そういうのをちゃんと自分で認めていった方がいい。それがいわゆる責任って言われてるものでもあると思ってて、だからhibiのことはできるだけ全部任せたいなって思ってるし、任されることの楽しさも感じてほしいんだよね。
淀:そういう楽しさとかもあるんやけど、それよりは、こうの方がいいよねって言われた時に、なんというか、それは僕が別にやりたいことじゃないな、っていうことを言えてないモヤモヤがずっと続いてる感じ。
それぞれの想いを擦り合わせるKINUBARI COFFEEの思想 “OUR LiVES”
蝦夷丸:なるほどね。他者とのコミュニケーションって、お互いの間にあるものをより良くするためのものじゃん。そもそも自分がいいって思ったことを全部通したいんだったら全部自分でやるしかないし、敢えてそうじゃないやり方で他者と共創するっていうのは、自分の考え方とかこうした方がいいよねみたいなものを、相手のそれと擦り合わせすることなんだよね、きっと。
淀:その擦り合わせになんか、イライラしちゃうんだよなぁ(笑) なんで伝わらないんだ!って。
アツヤ:イライラしちゃうのね(笑)
蝦夷丸:まじか(笑) 世の中のほとんどのことはちゃんと誰かと誰かがめっちゃコミュニケーションして作られたり、世に出されたりしてるもので。大祐さんは、そこをビビらずどんどん出してった方がいいんだよなって思う。ちゃんとそれで良いものが出来上がる経験をちょっとずつ積んでいくしかないっていう気もするなぁ。
淀:それは本当にそうで、ずっと自分ができてないことだなって思う。
蝦夷丸:多分そういうところに、モヤモヤしてる気がするんだよね。ミッツくんにお願いしてるロゴとかデザインとかは、あんまりたくさんコミュニケーションしてっていうよりは、できるだけ最初から材料になるものを供給しまくって、それを元にミッツくんがあげてくるものは、もうそれでOK!みたいな感じで進めてるけど、実際そんな風に進められることってほとんどないからね(笑)
淀:僕が普段、言葉数が少ないのって、擦り合わせが面倒くさいって思ってたのもあるけど、正確に全部伝えたいからっていうのもあった気がする。単純に言葉が見つからないこともあるけど、一発で全部伝われ!って思ってた。全部こっちの思いもわかって欲しいし、逆に僕も、相手の思いを全部わからなきゃいけない、全部理解しなきゃっていう感じでいたのもあった。
蝦夷丸:最初から全部伝わることなんてなくて、自分とは全然違う感覚とか価値観を持った人たちと、与え合って、やり合って、その結果できあがっていくものが、自分の想像を超えためっちゃ良いものになっていくっていう感じ。
淀:その経験が足りてないのか。
蝦夷丸:それがつまりキヌコーの思想でもある「OUR LiVES」ってことだから。hibiではそうやって、大祐さんなりに気づいて「こうだったら良さそう」とか「こうだったらいいかも」とか、そういうのをもっと出した方がいい。ただその分ちゃんと自分も傷つくこともあるんだけどね。そういう意味でも、大祐さんにとって挑戦であれって思うし、こっちもそういうつもりでいる。
淀:うーん、傷つきそう(笑)
蝦夷丸:これめっちゃいいと思ってたのに!みんなはそう思わないのかぁ!とか、逆に全然違うこと言われたりとか。でも、そのやりとりをたくさんした結果出来上がるものが、やっぱりめっちゃいいものだったり、そのやり取り自体が後から思い返したらめっちゃ面白いからいいなって思うんだよなぁ。やっぱKINUBARI COFFEEは、OUR LiVESだから。
淀:OUR LiVESってそういうことなのか、なるほど。
蝦夷丸:「hibi」で自分を見つめながら、日々ベーグルを焼く。それが大祐さんのOUR LiVESなのかもね。
数ヶ月前のこと。急に、蝦夷丸から僕と大祐さんに「今日飲み行こう。話したいことがある」というメッセージが来た。そしていつもの居酒屋いこいで、この対談記事を出したいという話を聞いた。
「俺も大祐さんに言えてないことあるし、大祐さんも俺に言えてないことあるでしょ? それを記事にしたい」と、その際に蝦夷丸が言っていたのも、OUR LiVES ということなんだろうと、この記事を起こしていて感じた。
これから大祐さんは様々な人と出会い、「Bage & Herb tea hibi」にどんな風景をつくっていくのか、今からとても楽しみである。