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水母

雪のした温もる土に咲く水仙がいた。
或日の雪を解かし、陽のもとに生まれ出づればそれは一鳴きニャアという。

無論、猫ではない。
水仙は鳴く。真実を知るなら厳冬の雪を割り、耳を澄ませてみるといい。びょうびょうと吹く北風に負けぬよう。
 
 
 
のちに冬の扉を叩くひとありて。扉をそろりと開ける白い指と真綿の紬が覗く。雪女、そのような今は昔の世俗を語り継ぐわけでなく、ただの女であろうものだ。

しかし、奇妙だ。
女の手はどう見ても随分と下方にある。逆立ちでもしているというのか。まさか、上下の逆転。背中がひやりとする。そのとき、

ニャアと女が鳴いた。いや、女の手の向こうから猫が現れたのだ。洋猫だろうか、将又は長毛の狸か。正しくはカラメル色の毛玉かもしれない。昔、シベリアの森に棲む猫がいると聞いたことがある。ふいと思い出す。

どうぞ、女の声がした。いつの間にと女の指は消えていた。

扉のなかを覗くと、その奥には鰻の寝床のような土間が続いている。女の姿はない。代わりに猫が迎え入れるように、また一鳴きした。

躊躇うも北風には抗えず軒をくぐり後ろ手に扉を閉めると、一服の暖かさを感じる。

どうぞ。奥から先ほどとおなじ女の声が響いた。
覚悟とは後ろか前か、而して儘よと脚は前を向いた。つづく

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