パリの気概と希望
パリ五輪の閉幕した翌日に、パリから我が家に来客があった。Aさん母子。家内とAさんが20代からの友人で、Aさんはフランス人と結婚。長年パリで暮らし、大学生の息子さんがいる。
Aさん母子の来宅は2回目で、今回は2泊3日の滞在。家内と違い私が母子と会話したのはわずかだが、それでも心が通う瞬間があった。それは、話題がパリ市の紋章に及んだ時。私がふと以前読んだ本を思い出し、お母さん(Aさん)に、「“たゆたえども沈まず”(Fluctuat nec mergitur)あの言葉はいいですね」と語ると、息子さんが即座に短く言葉を発した。私がポカンとしていると、お母さんが「ラテン語で言ったんです」(紋章にはラテン語で刻印)
それまで私と息子さんとの会話は、私=質問、彼=応答だったが、この時だけは息子さんから話に飛び込んできた。何だか彼の意思を感じたようで私は嬉しかった。
「たゆたえども沈まず」(揺れ動くけれども沈まない)は、もともと水運都市・パリの船員たちに広まった標語で、やがて動乱、革命、占領など数々の歴史の荒波を生き抜くパリ市民の象徴になったという。
私は今、史上最も激しい揺れに直面しているのは人類ではないかと思う。地球温暖化、気候変動、海洋汚染、大量の核兵器、止まない戦火。。。私ができる努力は小さいが、正念場に立つ人類の一員として、“沈まず”の気概と希望は決して手放してはなるまい。