世界最大の慈善基金財団に学ぶ支援のグッドプラクティス
昨日はファンドレイジング協会の主催するファンドレイジングサロンに参加してきました。ファンドレイジングサロンとは月1回、毎回のテーマに沿ったスピーカーをお呼びし、お酒と軽食を混じえながらリラックスした雰囲気でファンドレイジングに関する旬なお話をしていただく、ネットワーキングと学びを深める場です。
今月は「ビル&メリンダ・ゲイツ財団が実践する、成果にこだわる事業マネジメント~世界最大の慈善基金財団が目指している世界観~」というテーマで、同財団の日本代表倉林美保子氏にお話を伺いました。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団(以下、ゲイツ財団)は言わずと知れたマイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏と妻のメリンダ氏が立ち上げた、資産400億ドルを超える世界最大の慈善基金財団です。実はこのゲイツ財団、昨年の7月に日本事務所を立ち上げていたんですね。
冒頭の自己紹介では柏倉さんが幼少期に経験された貧困問題を考えるきっかけとなったエピソードに始まり、様々なキャリアを経て現職に至るまでのお話がありました。ご本人曰く、遠回りしたけれどもようやくここに戻ってこられたと。そのメキシコの原体験があってから常に貧困問題への思いがあったそうで、現在まさに途上国の貧困問題に取り組むゲイツ財団で働いていることが本当に嬉しそうにお見受けしました。ここで私の勝手なキャリア論を披瀝するのは大変おこがましいのですが、ずーっと一直線に何かを追いかけるよりも、様々な異業種や多彩な経験を積まれてから本当にやりたい分野に携わる方が、その分野・業務に対して自分が貢献できることの幅が広くて、とても充実した働き方ができるんだと思います。自分も脈絡なくキャリア積んできましたが、それぞれに過去の経験が生きているのでそう実感しています。
その後、本題としてゲイツ財団の理念や、活動概要、活動に際して重視する点や日本での活動の見通しなどのお話がありました。
ゲイツ財団は日本事務所の設置は昨年でしたが、それ以前からすでに日本との連携例はあります。以下2件、開発援助において非常に参考になる事例だと思います。
1.グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)
GHIT Fundは、官・企業・市民がセクターの垣根を越えてパートナーシップを組み、共同で資金を拠出して設立した世界初のグローバルヘルスR&Dに特化した基金(Product Development Fund)です。
開発途上国で必要とされる医薬品やワクチン等の研究開発には市場原理が働かないため、新薬開発のための資金を創出し、研究開発を推進するための新しい仕組みが必要でした。GHIT Fundはその課題を解決するために誕生した画期的なプラットフォームです。
途上国の最貧困層が必要とする医薬品・ワクチン・診断薬の研究開発・製品化に向けて、日本が、GHIT Fundが積極的にリーダーシップを発揮していきます。(リンク先HPより抜粋)
国家と企業を巻き込みそれぞれが強みを活かして相乗効果を狙うこの取り組みは今後盛り上がってくるSDGsへの取り組み方を考える際に非常に参考にされる事例になるのではないでしょうか。また、インパクト評価として30以上の製品開発マイルストーンが設定されていて毎年の進捗が測定・評価されている点も大いに参考にすべき点ですね。
2.JICA「ポリオ円借款」事業
2011年、JICAは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団との間で業務協力協定を締結しました。同年から実施された円借款「ポリオ撲滅事業」では、先方政府が一定の成果を達成した場合、ゲイツ財団が政府に代わってJICAに債務返済を行う仕組み「ローン・コンバージョン」を採用。2014年にその代理返済が決定し、同年の「DAC賞」で表彰されました。
「ポリオ撲滅事業」より、ポリオ・ワクチン接種を受けた5歳未満児の数は、約2,880万人(2011〜2014年度)にのぼります。
続く、「ポリオ撲滅事業(フェーズ2)」、また同じくポリオ常在国であるナイジェリア向け円借款でも「ローン・コンバージョン」を適用。今後もJICAは、世界からのポリオ撲滅を目指し、関係機関との連携を進めるとともに、未来を担う子どもたちの命と健康を守るための支援を続けていきます。(リンク先HPより抜粋)
このローン・コンバージョンという仕組みが絶妙なんですよね。ただの借款では返済が受け手にとっては負担として残り続けます。かといってただでゲイツ財団が立て替えてしまってはただの寄付で終わってしまい、目指すべき成果(インパクト)が本当に得られるかは受け手側に委ねてしまうことになり、本当に効率の良い支援となるか疑問が残ります。そこで、このローン・コンバージョンという仕組みでは一定の成果を達成した場合に返済を肩代わりすることで、ニーズではなくインパクトに対して資金を出すということが明確になり、支援の受け手もインパクトを追求するための大きなインセンティブになるわけです。
これら2つの事例からわかるように、ゲイツ財団は単純に困った人・国や課題にただ資金を提供するのではなく、課題解決の最適解は何かを綿密に検討し、必要なステークホルダーと積極的に連携を図りながら常に具体的な成果を上げ続けています。
後半の質疑応答では、年間予算約5,000億(1$=110円くらい)というこの財団が、ゲイツ夫妻とウォーレン・バフェット氏の個人資産とその運用益によって運営されていることにも驚かされました。柏倉さんが、当団体はファンドレイジングはしていません、とサラッとおっしゃられて、居並ぶファンドレイザーの皆さんはどんな感慨を抱かれたのか。。。
ちなみに日本で慈善事業を行う財団と言うと日本財団が真っ先に思い浮かびますが、他に最近だと村上財団も気になる存在です。いずれ取り上げたいと思います。